「トラックが通ると塩水が…」漁港近くの踏切で貨物列車が脱線 塩害でレール腐食か 事故原因を検証
JR函館線で11月16日に起きた貨物列車の脱線事故。
原因は「レールの腐食」の可能性が高いとみられていますが、果たして未然に防げなかったのか。
現地を取材すると、「事故は起こるべくして起きた」と証言する声も聞かれました。
現場の踏切で何が起きたのか、検証しました。
踏切を起点に脱線か 物流の大動脈で事故
(JR北海道 綿貫泰之社長)「多大なご迷惑をおかけしたこと深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」
国内有数の大動脈で、またも起きた脱線事故。
(東海林記者)「運輸安全委員会が事故現場に入ります」
(運輸安全委員会 西本正人鉄道事故調査官)「脱線事故なので、非常に重大な事故だとみています」
今回の脱線の起点とみられる「鷲ノ木道路踏切」。
中央には大きな穴が開き、周りに破断したレールが散乱していました。
脱線現場はJR函館線、道南の森駅と石倉駅の間。
旅客列車や貨物列車がそれぞれ1日30本以上通る、国内屈指の重要路線です。
JRも「初めて見た」 踏切のレールが腐食
脱線したのは、名古屋から札幌に向かう貨物列車。
16日午前1時40分ごろ、コンテナ車両5両が脱線し、最後尾の1両はおよそ30メートル分離しました。
さらに衝撃が走ったのは、事故後のJRの会見でした。
(JR北海道 島村昭志鉄道事業本部長)「当社としてはレールの腐食が脱線の原因の1つになった可能性が高いと考えている」
腐食したレールの状況にJRもー
(JR北海道 島村昭志鉄道事業本部長)「私どもも初めて目にする状況。どうやればこういうふうに腐食するのかつかめない」
JRですら「見たことがない」という線路の腐食。
しかし、現場を訪れると、ある可能性が浮かび上がってきました。
漁港近くの踏切 トラックが通ると海水が…
問題の踏切を通り抜けると…
(宇佐美記者)「目の前に港が見えます。たくさん船がとまっているのがわかります」
鷲ノ木踏切と目と鼻の先にある、森町の「鷲ノ木漁港」です。
地元の漁師に話を聞いてみると…
(宇佐美記者)「どういう踏切?」
(地元の漁師)「(利用するのは)主に浜の人」
(地元の漁師)「(漁師は)全員使っている」
さらに話を聞いてみると、多くの人が懸念していたことが浮かび上がってきました。
(地元の漁師)「4トン車とか結構通るから、だんだんすれば(揺れると)水がこぼれる」
(地元の漁師)「漁師だから塩水を積んだ荷物を積んだら常に塩水がかかる。だから普通の踏切とはわけが違う。そういうのをJRは丹念にしていない。だからこういう事故になったんだ」
(宇佐美記者)「海水でしょうか。漁港から来た軽トラックから少し水がこぼれているのが見えます」
ほとんどの漁業関係者がこの踏切を利用していて、段差で車が大きく揺れているのがわかります。
別のトラックも荷台に積んだ海水が線路にー
普通の踏切とは、明らかに状況が違っていました。
(日本大学 綱島均特任教授)「海風の影響によって塩分がレール腹部に付着し、それに加えて日常的に漁業関係者が通っていて、塩分がさらに付着しやすい影響があれば、腐食が進む可能性は当然考えられる」
JR東日本・新潟支社が発表した論文です。
そこには、塩害により10年程度で線路が4ミリ腐食するという研究結果が書かれています。
レールはわずか3ミリに…敷設から32年経過
今回、破断したレールは敷設から32年。
本来、厚さ15ミリあるレールの「腹部」が、腐食によって3ミリになっていました。
JR自身も「見たことがない」というレベルです。
(日本大学 綱島均特任教授)「腐食を身近な問題として捉えている場合は、より気を付けるようになるので、海沿いは。保守管理上の抜けがあったことは指摘されてもやむを得ない」
地元の漁師「なるべくしてなった」
(地元の漁師)「1回も(レールを)取り替えているのを見たことない。これだけ塩水がかかるところでたったそれだけの点検で。なるべくしてなった」
敷板で覆われた踏切のレール。
実は9月のエコー点検で異常があったにもかかわらず、敷板を外して確認していませんでした。
これには別の専門家も、JRの保線の体制を厳しく指摘します。
(工学院大 高木亮教授)「敷板を外さずにレールの頭部を見て済ませてしまったことが明らかに問題だった。自然条件や場所によって違うことと常に戦い続けなければいけないことが、地べたにレールを置く鉄道の宿命だと思う」
(JR北海道 綿貫泰之社長(20日))「現場の責任ではなく、そういうルールにしていたので、腹部の腐食に思い至らなかったルールの設定の問題と認識」
「塩害の影響」踏切の特異的な構造も
JR北海道は11月29日に会見を開き、脱線が起きたとされる踏切が特異的な構造で塩害の影響をうけた可能性があると見解を示しました。
(JR北海道 進藤州弘工務部長)「潮がなければ、あそこまでの腐食が進むとは考えにくいので、おそらく塩(分)の作用は何かしらあると考えている」
さらにー。
(宇佐美記者)「列車が踏切を通過します。車両が大きく右に傾いています」
JRは塩害のほかにも線路が曲線で傾いていたことが、レールの腐食につながった可能性があると説明しました。
(JR北海道 進藤州弘工務部長)「傾きがついた線路になっていて踏切内が凹凸がついた道路面になっているので凹凸のくぼみに水がたまりやすかったのでは。環境要因のどれが、鷲ノ木踏切(現場)で強く働いたか現段階では特定できていない」
繰り返される脱線事故 修繕費は4割増加
道内で繰り返される脱線事故。
2011年には石勝線で脱線、トンネル内で特急列車が炎上。
2013年には大沼駅構内で貨物列車が脱線。
レール幅が広がっていたことなどが原因でしたが、検査データを書き換えていたことも判明しました。
(工学院大 高木亮教授)「今回、比較的重要な路線であっても、この程度の保守しかできないことだとすると、もう少し経営体制のあり方を考えなければいけない。JR北海道だけの力でどうにかなるという範囲はもう超えているかなと思う」
高木教授がこう話す理由は、JR北海道の厳しい経営状況にあります。
修繕費は設備の老朽化もあり、ここ10年で4割近くも増加。
さらに綱島教授は、安全投資が十分ではない可能性を指摘します。
厳しい経営状況「国全体で考えるべき」
(日本大学 綱島均特任教授)「北海道の鉄道は北海道だけのものではない。貨物輸送で物資の輸送で非常に大きな役割を果たす。さらにインバウンドで観光客の足にもなる。観光資源を支える重要なインフラでもある。それは国全体として考えるべきです」
またしても明らかになった「安全への体制の不十分さ」。
北の鉄路をどう守るのか。
あの「腐食したレール」は、直面している課題の重さを改めて突きつけています。