伐採されたマチのシンボル 苦渋の決断も…観光客の迷惑行為後絶たず 観光と農業の共存は?美瑛町

北海道の観光地のひとつ・美瑛町は、今も観光客のマナー問題などオーバーツーリズムに直面しています。
観光業を育てながら、農家の暮らしも守りたい。
解決の糸口は見つかるのでしょうか。
シンボル「シラカバ並木」伐採 農家の悲痛な想い
美瑛町のシンボルだった、シラカバ並木の切り株です。
付近の農家・大西智貴さんは、今も悲痛な想いを抱えます。
(農家 大西智貴さん)「記念撮影する場所でもあるし、ウェディングフォトの撮影スポットでもある。ここに愛着もって来ている人にとっては悲しい結果になった」
かつてシラカバ並木周辺は多くの外国人観光客が集まり、毎日のように農家の生活道路を埋め尽くしていました。
そして、2025年1月、40本ほどのシラカバ全てが伐採されました。
農家と町が協議したうえでの、苦渋の決断でした。
伐採されてからはじめて迎える夏の観光シーズン。
目の前には、これまでと変わらない光景が広がっていました。
(警備員)「周り見ながらやって」
残されたセブンスターの木を目当てに来た、大勢の観光客の姿がありました。
ツアーガイドが道をふさぎ、写真撮影に夢中です。
(ガイド)「こっち見てー」
(記者)「道をふさいで写真を撮るのが問題になっているが?」
(ガイド)「時間が足りないからお答えできません、削除してほしい」
(記者)「特に悪いとは思っていないですか?」
相次ぐ迷惑行為 対策講じるも“いたちごっこ”
セブンスターの木周辺は、夏のおよそ1か月間、駐車禁止の措置がとられました。
しかし路肩には、運転手が席を離れた車が目立ちました。
監視カメラの設置や警備員の配置など、町も3年ほど前から手を尽くしてきましたがー
いたちごっこに終わっているのが現状です。
(カメラマン)「そこ入ったらダメですよ、畑」
畑に踏み込む迷惑行為も相次ぎました。
もし害虫が持ち込まれたら、作物は枯れ、農家にとっては死活問題です。
中でもジャガイモは特に病気に弱い作物。
一度害虫が畑に入れば、同じ品種は育てられなくなる可能性もあります。
それでも農家の声は届きません。
(農家 大西智貴さん)「風景の写真を撮るのは勝手に撮ってろよって感じですけど。自然だったらこんなにまっすぐ作物が並んで植えられるわけないし、自然だったらパッチワークになるわけないし、全然自然じゃないですよね。みんな農家の人それぞれ営みのたまものというか、やってきた積み重ねがこういう景色になっている」
「農家ありきの観光資源」地元事業者の複雑な想い
美瑛の農業は、かつて農家たちが馬とともに丘を切り拓いてはじまりました。
黄金色に染まった小麦畑。
青々と茂るビートの葉っぱ。
真っ白に咲くジャガイモの花。
パッチワークとも呼ばれる景色は、農家の手で育まれてきたのです。
美瑛町にとって、観光も大切な産業。
地元産のジャガイモを使ったポテトは、観光客に大人気です。
(観光客)「美瑛いいね、めちゃおいしいです。美瑛ポテト、素晴らしい」
店主の市川さんは埼玉県出身。
美瑛の自然に魅了されて家族で移り住みました。
(POTATO&CO. 市川望代表)「美瑛町でジャガイモをメインで提供するお店がなかったので、これはチャンスかなみたいな。夏を迎えたところでインバウンドも増えていて、順調だと思います」
夫の陽一さんが営むバーも、外国人から人気を集めます。
(THE BAR〔MOKU〕 市川陽一代表)「ほぼ全部美瑛の木で。林業にとってはいらない木を集めてもらいました」
シラカバの木を使って店のインテリアを手掛けた陽一さん。
観光客の恩恵を受けながらも、複雑な想いを口にします。
(THE BAR〔MOKU〕 市川陽一代表)「農家さんの持ち物を利用させてもらって観光資源にしている。農家さんありきの観光資源なんです。町として木を観光資源にしているわりには、ちゃんと話できているのかなと。じゃなかったら(シラカバの)木を切らないですよね」
駐車場税と宿泊税の導入へ 動き始めた美瑛町
抜本的な解決策が見えない中で、町も動き始めました。
それが、駐車場税と宿泊税の導入です。
(美瑛町 角和浩幸町長)「今回の税制は、将来の美瑛町にとって大事な税になる。法定外普通税ですので、観光のため以外にも使えるという税の仕組みにしております」
青い池での駐車場税や宿泊税が、2026年度以降導入されます。
町が見込んでいる税収は、あわせて2億3200万円。
オーバーツーリズム対策費だけではなく、農業振興にも充てる予定だといいます。
(農家 大西智貴さん)「(立ち入り禁止の)ロープを張るとか警備員を配置するとかが恒久的な答えではないと思うので、ランドマーク的な観光地周辺で仕事をしている人、特にそういう人たちに対するケアってもっとあってもいいのかなと」
切っても切れない観光と農業。
オーバーツーリズムの解決に向けて今、大きな岐路に立たされています。