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待機期間は平均2年半 北海道内でも「肺移植」始まる 希望患者は年々増加 命をつなぐ臓器提供

重い肺の病気がある患者にとって最後の手段といえる移植手術。

2025年に道内で初めて北海道大学病院が肺の移植施設に認定されました。

肺移植で命をつないだ患者と臓器提供の課題を取材しました。

「この息苦しい生活から楽になれる」肺移植手術を受けた女性

(横山美紀さん)「おはようございます。きょうはみんなの睡眠について、グループで話し合ってもらいながらと考えています」

札幌市内の高校で教壇に立つ横山美紀さん55歳。

(横山美紀さん)「どう夢見た?きょう見た?見てない?先生も最近見ない。覚えてないよね」

(生徒)「せきとかしながら頑張っている」

(生徒)「明るい先生」

(生徒)「肺移植したかわからないくらい声が大きくて」

(生徒)「元気でいつも」

横山さんは30代のとき、片方の肺の移植手術を受けました。

26歳で発症した「リンパ脈管筋腫症」。

肺の機能が徐々に低下する難病で、残された治療は肺移植しかありませんでした。

(横山美紀さん)「もうこれで楽になれる、この息苦しい生活から楽になれるって思いました。生きるにしても死ぬにしても」

機能不全となった肺を摘出し、新しい肺と入れ替える「脳死肺移植」。

脳死判定を受けたドナーから片方または両方の肺を移植します。

限界を迎えていた横山さんの左の肺を取り出し、大きさや血液型が適合したドナーの肺が移植されました。

移植手術は北海道外で… 患者にとって“不安”も

(横山美紀さん)「おはようございます」

(NTT東日本札幌病院 橋本みどり医師)「体調はお変わりありませんか」

いまも月に1度の通院が欠かせません。

(NTT東日本札幌病院 橋本みどり医師)「他人の肺が入っているということは、異物が体の中にずっとあるということになるので、それに対する拒絶反応を抑えるための薬が複数必要になってきて」

(横山美紀さん)「1日に飲む量はこれが朝・昼・晩。これが免疫抑制剤ですね、ドナー肺を守るためのお薬ですね」

横山さんが移植手術を受けたのは仙台市内の大学病院。

当時、道内に肺移植ができる病院はなく、患者は遠く離れた道外の病院で治療を受けなければならなかったのです。

(横山美紀さん)「大変だったことは、直接執刀してもらえる医師に事前に診てもらえないのが、病気の経過を診てもらえていなかったのは不安でした」

手術までの待機期間は平均2年半 北海道初の肺移植施設

最先端の設備がある北海道大学病院。

2025年3月、道内で初めて肺移植施設に認定されました。

移植手術や術後のケアを含めた医療体制を整えてきた北大病院。

肺移植を希望する道内の患者にとって、治療の選択肢が増えると加藤達哉教授は話します。

(北海道大学病院呼吸器外科 加藤達哉教授)「北海道でできないなら移植をあきらめていた患者も結構いらっしゃって、移動がものすごく大変だから。北海道・札幌でできるということになれば移植を受けようと思う患者も増えてくる」

北大病院が認定に向けて動き出したのは2014年。

加藤教授ら複数の医師がカナダで肺移植を学んだほか、医療スタッフの研修費用をクラウドファンディングで集めました。

札幌出身の加藤教授が肺移植を目指すようになったのは、重い肺の病気を患っていた女子高校生の存在があると振り返ります。

(北海道大学病院呼吸器外科 加藤達哉教授)「当時は移植なんてという大きな壁があった。その子がいまそういう状況だったら早く登録しようと言ってあげられるんだけど、当時はそういうのができなかったし、知識も技術もなかったしという思いがある。結局その子は亡くなってしまった」

肺移植を希望する患者は年々増加し、2024年に全国で600人を超えました。

しかし、移植手術は148例にとどまり、平均で2年半とされる待機期間に亡くなる人も多いのが現状です。

(北海道大学病院呼吸器外科 加藤達哉教授)「これまで移植しないと助からなかった方はたくさんいて、こういう方が移植を受けられるようになれば救えるはずの命が救えるようになる」

臓器提供を承諾するか…判断に迫られる家族 決断の決め手は「本人の意思表示」

移植医療に不可欠な臓器提供。

本人の意思に加えて家族の承諾が求められます。

(岡崎希美さん)「めいと写っている写真。おおらかな感じで家族思いでした」

札幌の岡崎希美さん(仮名)です。

10年ほど前、母の朋子さん(仮名)がくも膜下出血で倒れ、脳死状態となり、肺を含めた臓器提供を承諾するか判断に迫られました。

(岡崎希美さん)「それを私たちが決断することは本当に母が死ぬことを意味するので、こんなことを私たちが決めていいのかと、すごく重かった」

決断の決め手になったのは、朋子さんが生前残した運転免許証の意思表示でした。

(岡崎希美さん)「私と妹が判断できたのは母の意思表示があったから。それがなかったら全く臓器移植をしようと思わなかったかもしれない。母にとって人の役に立ちたい気持ちが実現できたことは誇らしく思いますし、提供された方は具体的にわからないが、その人の健康や幸せに結びついているなら幸せなことだなと思います」

しかし、本人の意思がわからないまま、家族の承諾のもとで臓器が提供されるケースがほとんどだといいます。

(北海道臓器移植コーディネーター 高橋美香さん)「実際に臓器提供したなかで、8割が意思表示がない方々なんです。家族は本人がしたいならと決められると思うんですけど、それも見当たらない、本人がどうしたいかなんて話したことがない家族が多い」

肺の移植手術を経験した横山美紀さんです。

臓器移植への理解が進むことを願っています。

(横山美紀さん)「命をもらっているので、感謝以上でもありがとう以上でも言葉がなくてという感じなので、サンクスレターにはありきたりで申し訳ないけど、感謝しています、ありがとうございます、ともに生きていきますよということをお伝えしています」

臓器移植でつながる命。

道内でもはじまる肺移植に期待が高まっています。

09/06(土) 08:01

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