経済に大打撃 札幌開業延期の波紋 “新幹線なきまちづくり” 方針転換迫られる自治体や企業 北海道

北海道新幹線の札幌開業は、2038年度末以降に大幅に遅れる見通しとなりました。
札幌延伸を見据えて動き出していたマチや企業は、大きな方針転換を迫られています。
開業延期に揺れる現場を取材しました。
延伸の遅れがマチの衰退に…事業費の地元負担増加も懸念
噴火湾でとれたホタテに、丸ごと入ったイカ。
看板メニュ-の「浜チャンポン」です。
(来店客)「おいしいです、うまい」
(来店客)「魚介類がいっぱい入っていて、とてもおいしいです」
北海道南部の長万部町にあるラーメン店です。
北海道新幹線の新駅誕生をきっかけに、店の繁盛を期待していました。
(三八飯店 北村康幸さん)「新幹線の駅ができることによって描けるマチのビジョンが、8年間我慢しなきゃいけないのが町民としては歯がゆい」
2030年度末の札幌延伸を目指してきた北海道新幹線。
新函館北斗から札幌まで長さ212キロの8割を占めるトンネル工事が難航し、札幌開業が2038年度末以降に遅れる見込みとなりました。
新幹線延伸を見据えてマチづくりを計画していた長万部町。
新駅の周辺では、延伸を待たずに商店や住宅など60戸あまりが移転し、道路を拡幅することが決まっています。
商工会は、延伸の遅れがマチの衰退につながると危機感を募らせます。
(長万部商工会 赤塚顕爾会長)「若い人が少ないので、経営者は65歳から70歳が多いので、それが歳をとっていくと店を辞めようかなとか、続けていけるのかなとか、後継者がいないところもあるので、影響が出てくる」
さらに懸念されるのが、事業費の地元負担の増加です。
(長万部町 木幡正志町長)「新幹線やったらマチがなくなる、潰れちゃうよって、財政的にも厳しいんだから。事業を1回延期しますって言ったら皆さんの人生が変わってしまう。商売のやり方も変わるし、生き方も変わる。それは止めることができない」
新幹線の事業費は2022年、当初の計画から6450億円増えて、2兆3150億円に膨張。
国が3分の2、地方が3分の1を支払う仕組みで、長万部町はおよそ25億円の負担を課せられていますが、さらに増えると見込んでいます。
(長万部町 木幡正志町長)「負担増は国の方で責任を持つくらいのはっきりとした明確な答えがほしい。だけど、その答えは出てきていない」
開業したホテルも先行き不安… 経済に打撃受ける札幌市
経済に大きな打撃を受けるのが、札幌市です。
(宮崎記者)「札幌駅の東側には創成川をまたぐ形で新幹線駅が作られます。東改札口には交通広場が整備される予定ですが、その見通しがつかない状況となっています」
2025年3月、JR札幌駅東側の再開発エリアに開業したホテルです。
自慢は道産食材を使った朝食。
道内最大級605の客室があるだけに、先行きを不安視しています。
(札幌ホテルbyグランベル 岡村和樹支配人)「ホテルの集客ということでも影響は大きいのかなと思う。ターゲットは絞らず、いろんなお客様に泊まっていただくための営業活動をしていかなければならない」
道の試算では、新幹線延伸による経済効果はおよそ2兆5000億円。
その7割が札幌に波及するとされていました。
(札幌市 秋元克広市長)「やはり地元としてなかなか納得できるものではない。非常に遺憾に思っております」
「新幹線が突破口だった」地域医療を揺るがす事態に…
影響はマチの経済だけではありません。
(宮崎記者)「在来線の八雲駅からおよそ3キロ離れたこのあたりに新しい新幹線の駅が開業予定です。大きなクレーンを使って、工事が着々と進められています」
1万4000頭の牛が暮らす“酪農のマチ”八雲町。
新駅も「牧場の中にある駅」がコンセプトです。
しかし、延伸の遅れが地域医療を揺るがす事態に発展しています。
(八雲町 岩村克詔町長)「病院は経営的なことから医師からこんなに期待していた。もうがっくりだもんな。力抜けるというか」
マチが抱える長年の課題が、医師不足です。
町立の八雲総合病院は、主に札幌から日帰りで通う「出張医」に頼っていて、医師全体の4割にのぼるといいます。
(利用者)「病院内を歩いていたら出張医とか、かかっていることが多いので、もうちょっと常勤の医師が増えればなと思いますね」
(利用者)「ここは近隣の市町村からも(患者が)来る病院だから、地域に頼られる病院であるためにも、いい医者がいたほうがいいに決まっている」
新幹線が走れば、札幌から八雲までは45分程度。
利便性が良くなり、常勤医が増えると期待していました。
(八雲町 岩村克詔町長)「我々としてはそこが一番だった。開業したときの病院の夢を見ていたから。もう何十年も医師や医療スタッフの確保にずっと苦労してきたから。この新幹線が突破口だった」
“経営自立”できるのか JR北海道も痛手
経営の自立をめざすJR北海道にも痛手です。
新幹線の延伸で経営分離される小樽ー函館間の赤字は年間90億円以上。
収益の柱としている商業施設やホテルなど開発事業への影響も避けられません。
(JR北海道 綿貫泰之社長)「並行在来線の赤字がそれだけ延びる形になりますので、当社の経営にとっても重大なことだと認識しております」
専門家は抜本的な事業の見直しが必要だと指摘します。
(北海道大学公共政策大学院 石井吉春客員教授)「JR北海道にとっては経営を立て直す期間の中での集大成が新幹線開業だった。札幌圏を中心とする鉄道利用が伸びる可能性がある部分を、どう重点的に対応してどこまで伸ばせるのか。裏側として人も含めた資源をどう捻出できるか、これはリストラや線区の見直しも含めた、その両面をもっと明確に出していかないと、経営自立は永久にできなくなる。そういう問題」
開業の遅れでくるい始めたマチづくり。
鈴木知事は国が責任を持つべきと訴えます。
(鈴木知事)「地域の経済・観光・新幹線駅周辺の整備・地方の負担。国に対して支援策の検討を求めていくということで取り組みを進めています」
広がる札幌開業延期の波紋。
その影響をいかに食い止められるのか、北海道の底力が試されています。