問われるJRの安全管理 真夜中の保線作業に密着 虚偽報告など相次ぐ問題 なぜルールが守られないのか 北海道

安全管理を怠る問題が相次いだJR北海道。
信頼を取り戻すのが課題になっています。
いま、鉄路の安全はどう守られているのか。
真夜中の保線作業にSTVのカメラが密着しました。
深夜に始まる保線作業 命を守るルール
小樽と長万部をつなぐJR函館線の通称「山線」です。
午後11時19分、最終列車が仁木町の銀山駅を出発しました。
(保線員)「線閉着手よし、右よし、左よし」
保線作業を始める前に大切なのが安全の確保です。
(札幌保線所 町中啓樹管理助役)「線路閉鎖というのは、信号機を赤にすることで列車を線路閉鎖区間に進入させないという手続きになります」
輸送指令と連絡をとり、列車の進入を防ぐ「線路閉鎖」の手続きがとられます。
さらに、作業車に乗って現場から1キロほど離れた場所へ向かいます。
(藤得記者)「いまからどちらに向かうんですか?」
(札幌保線所 町中啓樹管理助役)「稲穂トンネルの出口に向かっております」
暗闇の中、線路を歩き、トンネルに到着すると…
可搬式の信号機を線路上に設置しました。
(札幌保線所 町中啓樹管理助役)「あちらから列車が来た時でも、この信号機を(運転士が)見て列車が止まることができるというものになります」
万が一にも列車が進入しないように、「線路閉鎖」に加えて二重の対策をとります。
(札幌保線所 町中啓樹管理助役)「何かこれまでも重大事故が起きているときには人間のミスというのが絡んでおります。お客さまの命も社員の命も守れるように二重で安全を保っている」
しかし、その命を守るルールがないがしろにされていました。
相次いで発覚 安全管理怠り…虚偽報告も
2024年11月、JR砂川駅構内で保線員が見張り員を配置せずに保線工事を始めました。
そこに貨物列車が進入。
線路上にいた保線員に気づいて非常停止したのです。
さらに、虚偽の報告をするなど問題が相次いで発覚。
鈴木知事に改善策を報告する事態に発展しました。
(JR北海道 綿貫泰之社長)「ルール通りに作業が行われているか再確認を行い、作業実態を確認するための安全パトロールを強化する」
(宮崎記者)「国土交通省と北海道運輸局の監査員がJR北海道の保安監査に入ります」
その後も安全管理上の問題が続き、国土交通省は全国で初めて、2年間の「強化型保安監査体制」に入り、監査を強化しています。
ミリ単位で調整…保線現場のリアル
(保線員)「起点方、終点方、LED点灯設置よし、線路立ち入りよし」
(保線員)「線路立ち入りよし」
函館線の保線現場です。
線路上の安全を確認し、作業が始まりました。
総責任者の川野さんが測定するのは、「遊間」と呼ばれるレールとレールのすき間です。
(倶知安保線管理室 川野昌彦所長代理)「これはレールとレールがくっついている状態なので0ですね」
鉄製のレールは温度変化によって伸びたり縮んだりする性質があります。
そのため、レールのつなぎ目に伸縮を吸収するすき間が必要となります。
すき間が0の場合、温度が上がってもレールは伸びることができず、横方向に大きく変形してしまいます。
(倶知安保線管理室 川野昌彦所長代理)「レールの行き場がなくなってしまうので、横にレールが逃げてしまって、座屈現象的なものがあったりする」
過去には旧JR江差線で、気温の上昇によってレールにひずみが生じ、列車の脱線事故が起きました。
保線員がすき間を調節する機械でレールを押します。
(保線員)「あと5ミリ」
(保線員)「もう少しこいていいよ」
反対側のすき間をミリ単位で調整。
気温が上がる夏を前に、この作業が欠かせません。
(倶知安保線管理室 川野昌彦所長代理)「9ミリです」
(藤得記者)「今回の夏に向けて理想のすき間?」
(倶知安保線管理室 川野昌彦所長代理)「はい。いまの温度に対しての適正な遊間入っています」
7人の保線員が休むことなくすき間を調整し、午前3時ごろに作業が終わりました。
保線を終えた現場を始発列車が出発。
何事もなく1日の運行が始まります。
なぜ、ルールが守られないのか
安全管理の問題が相次ぐJR北海道。
利用客からは改善を望む声が聞かれました。
(利用者)「ちょっと最近トラブルがやっぱり多いかなという気はいくらかしますね」
(利用者)「やっぱり命を預けている、命を乗せているんだということをもうちょっと自覚してほしい」
JRの社内調査では2024年度、34の保線管理室のうち10か所で、ルールに定める安全対策をとらず線路に立ち入る違反行為があったことがわかりました。
なぜ、ルールが守られないのか。
保線に携わる川野さんはこう話します。
(倶知安保線管理室 川野昌彦所長代理)「やはり作業時間が限られていますので、早くやっていこうということが出てしまったがために、おそらく作業優先になってしまったと。安全を保てない状態で線路に入ってしまったりしていったことが現状にあると思います」
(藤得記者)「事故とか安全を疎かにする事案が減らないという理由について思うことはありますか?」
(倶知安保線管理室 川野昌彦所長代理)「ちょっと難しいですね。答えづらいところですね」
JR北海道が保線現場で行った職場内議論ではー
・ルールが複雑かつ多く、100%理解している人はいないと思う
・時間管理や作業の指示など作業責任者が行うことばかりのルールで負担が大きすぎる
などの意見が社員から出たということです。
専門家は、JR北海道の厳しい台所事情が背景にあると指摘します。
(北海道教育大学札幌校 武田泉准教授)「一言で言えばお金が足りないってことで、手厚く安全に投資することができないから、このような事態に生じているのではないか。保線管理室は国鉄時代の3倍から4倍の担当距離の中に、人員もかつてから半分・3分の1というふうに減らされていますから、1人当たりの業務量は非常に多くなっている」
問題解決のためには、鉄道を安定的に維持できる仕組みが必要だといいます。
(北海道教育大学札幌校 武田泉准教授)「北海道のような採算がとりにくいところは、現在のような上下一体の路線ではなくて、上下分離をしたうえで、下の部分(線路などの鉄道施設)については、国なり何らかの公的なところが所有をするとか、公的な予算で維持していく枠組みが必要じゃないか」
問われる鉄路の安全と責任。
不適切な安全管理の改善をどう進めていくのか。その具体的な取り組みが急がれています。