ソーラーパネルの光と影…“開発”か“自然保護”か?国の「エネルギー政策」も背景に 北海道釧路市
本来は安心安全なエネルギーとして期待される太陽光発電。
しかし、釧路湿原周辺での大規模な建設をきっかけに、自然保護との間で揺れ動いています。
問題解決の糸口はどこにあるのでしょうか。
法律で守られた手つかずの自然に変化がー
獣医師の齊藤慶輔さんです。
(獣医師 齊藤慶輔さん)「オジロワシいますね、巣の上にとまっている」
見つけたのは、絶滅危惧種のオジロワシ。
(獣医師 齊藤慶輔さん)「ここに巣を作るにあたって、オジロワシは安心安全な場所として、さらにえさ場も近く子育ての場所としてここを選んでいるわけですよ」
齊藤さんは多くの野生動物の命を救い、自然保護にも力を入れてきました。
齊藤さんが請け負う事業の1つに、保護された野生の鳥を見学するツアーがあります。
(職員)「これをつけていてもつかまれると痛いです」
(職員)「握力何キロくらいあると思う?ワシたちは60キロくらいあるんだよ」
この鳥が普段生息している場所は…
日本最大の湿地帯・釧路湿原国立公園。
公園内は法律で守られ、手つかずの自然が残されています。
しかし、近年景色は変わりつつあります。
大規模な太陽光発電・メガソーラーです。
国立公園の境界から1キロほど外れた場所。
ここで齊藤さんが撮影した映像です。
タンチョウの親子の奥には、ダンプカーや大型の重機が見えます。
(獣医師 齊藤慶輔さん)「ある日突然大きな音がガンガンし始めて、(ドローンを使って)上から見たところ、思っていたよりはるかに大きな工事がなされていたんですね」
進められていたのは、メガソーラーの建設工事。
その様子をSNSに投稿すると、大きな反響を呼びました。
工事を始めたのは、全国で太陽光発電事業を展開する「日本エコロジー」です。
数々の法令違反が発覚 希少動物の生息調査に不足も…
(日本エコロジー 松井政憲社長)「私たちは無秩序な開発ではなく、地域と共生する再生可能エネルギーを目指す。方針は一貫して法令順守・環境保全・地域協働」
ところが、この工事を巡っては…
『希少生物への悪影響懸念』
釧路市でメガソーラーを建設する場合、タンチョウ・オジロワシ・キタサンショウウオなどの希少生物の生息調査が求められます。
国内でも数少ないキタサンショウウオの研究家・照井滋晴さんです。
(照井滋晴さん)「こういう生き物なんですよね」
これが絶滅危惧種のキタサンショウウオ。
(照井滋晴さん)「捕獲してどういったサイズなのか、どこでとれたかデータをとって現地に放す」
調査は繁殖期の4月中旬から5月中旬に、水の中に卵があるかないかを見てキタサンショウウオの生息を確認します。
(照井滋晴さん)「キタサンショウウオは毎年必ずしも産卵するわけではなく、1年間の調査では全く『いる・いない』は判断できず、繁殖期に複数年調査するのが基本」
しかし、当初の日本エコロジーによる調査は、キタサンショウウオの繁殖期からずれていました。
タンチョウやオジロワシについても調査不足が指摘され、市から再調査を求められています。
さらに、森林法違反にあたる伐採や土壌汚染の調査をせず工事を始めていたなど、複数の法令違反が発覚。
道は、土壌調査の結果が出るまで工事を再開しないよう指導しました。
(加納孝之副知事)「株式会社日本エコロジーさま、再三の指導にも関わらず現段階でも履行に至っていない。従っていないのはこれまでに例のないことであり、極めて遺憾と言わざるを得ない」
(日本エコロジー 松井政憲社長)「速やかに対応いたします、申し訳ございません」
東日本大震災以降、太陽光発電は安心安全なエネルギーとして国が推し進めてきました。
年間の発電量も年を追うごとに右肩上がりです。
一方で、ソーラーパネルの設置を直接規制する国の法律はありません。
その結果、全国でも問題が浮上しています。
メガソーラー問題は道外でも…「こんなにパネルを置かれるとは」
熊本県阿蘇。
1000年以上続く野焼きや放牧など歴史ある景観を誇ることから、「世界文化遺産」の登録を目指しています。
阿蘇山の南側に位置する山都町。
その山あいに向かうとー
3年前から稼働する山都町のメガソーラーです。
広大な敷地に、ソーラーパネルおよそ20万枚。
年間で2万世帯以上の電力を生み出しています。
しかし、「阿蘇の景観を損なう」という声があがりました。
(森田勝さん)「こんなに(パネルを)置かれると思わなかった。ここを初めて見たときはびっくりした」
かつてこの土地を所有していたのは、隣町の管理組合。
高齢化を理由に手放したといいます。
(森田勝さん)「組合員のみんなが「もう自分たちは牧野を管理できない」と。メガソーラー建設の話に私たちは飛び込んだ」
次の世代に荒れ地を残すよりよっぽどいい。
当時はメガソーラー促進の全盛期で、誰からも喜ばれると信じていました。
山都町も対応の難しさを感じています。
(山都町 藤嶋大輔さん)「(建設を)止めるという場合には法的な根拠を示さないといけない。再エネ特措法という太陽光発電を促進する法令がありますので、我々もどちらをとるべきか、自治体としてもやきもきしているところがある」
全国で問題が起きていることを受け、国は現在、規制強化の法整備を検討しています。
釧路市で自然保護の活動を続ける獣医師の齊藤さん。
無秩序な開発はやめてほしいと訴えます。
(獣医師 齊藤慶輔さん)「僕らが守らないといけないのは、網がかかった釧路湿原国立公園だけではなくて、開発の許可がおりかねない釧路湿原も守ること。少なくとも野生生物の環境保全には重要」
風の力や太陽の光を電気に変える自然エネルギーは、私たちになくてはならないもののはず。
だからこそ、秩序ある開発と法の整備が重要なのです。