戦争に翻弄されながら…守り続けたソーセージ 函館で100年続く老舗が伝える“平和”への思い

北海道函館でハム・ソーセージ作りに生涯を捧げたカール・レイモンさん。
戦時中、製造が禁止されても、そのソーセージの味は100年受け継がれてきました。
戦争に翻弄されたレイモンさんがいまに伝える思いとはー
老舗ブランド「函館カール・レイモン」のソーセージ
肉本来のうまみが詰まったソーセージに。
まるごと1本のソーセージをパンに挟んだホットドッグ。
老舗ブランド「函館カール・レイモン」のソーセージを使ったメニューです。
ドイツ伝統の製法によるソーセージは観光客にも評判です。
(仙台からの観光客)「おいしいですね。すごいジューシーでおいしいです」
(東京からの観光客)「歴史がある・重みがあるというお店だと思って、そういうものは食べてみたいと思うし、実際に食べてみておいしかったと思います」
(記者)「(カール・レイモンは)どういう人かわかりますか?」
(仙台からの観光客)「全くわからないです」
(仙台からの観光客)「ソーセージがおいしいという話だけでこちらに来ちゃいました」
函館市の西部地区にある「函館カール・レイモン」の店舗です。
大きな手が特徴の創業者、ハム・ソーセージ作りの職人、カール・レイモンさんです。
創業から2025年でちょうど100周年。
変わらぬ味を今に伝えています。
戦争によって翻弄…レイモンさんの平和への願い
実はレイモンさん、ただの職人ではありません。
EU=ヨーロッパ連合の旗には、レイモンさんの平和への願いが深くかかわっているのです。
1894年、現在のチェコで生まれたレイモンさんは、14歳の時から本格的にソーセージ作りを始めます。
仕事で訪れた函館でコウさんと出会い結婚。
1925年、店を開きました。
(カール・レイモンさん)「写真撮っているのですか?ほぉ~」
生前のレイモンさんの映像がSTVに残っていました。
(カール・レイモンさん)「こうやっていると手を切ります」
「胃袋の宣教師」と呼ばれたレイモンさん。
当時、栄養状態が良くなかった日本人が元気になることを願って、ハムやソーセージ作りに情熱を注いできました。
おいしく食べてくれる人がいることが彼の喜びだったといいます。
しかし、その思いは戦争によって翻弄されました。
第一次世界大戦では自ら従軍。
日本で暮らすようになってからは太平洋戦争を経験しました。
工場は強制買収され、ハム・ソーセージ作りは禁止に。
スパイ扱いされるなど、いわれなき差別や迫害を受けたといいます。
(妻・コウさん)「若い時、戦争で死線をこえて来たから。助かったのは神様が助けてくださったから。これからは自分の命を平和のために働きたい」
終戦後、レイモンさんは函館でソーセージ作りを再開しました。
(太田誠一さん)「3階までかな、ただの窓かな」
その工場と自宅のとなりに住んでいたのが太田誠一さんです。
(太田誠一さん)「とにかく握手が好きな人でね、こんな太い、フランクフルトみたいな指していて力が強くて、握手すればぐっと握るんですよ。痛いくらい握るの。レイモンさん、指の力強いねって言えば、すごいいつもケタケタ喜んでいて」
レイモンさんは常に平和への思いを口にしていたと振り返ります。
(太田誠一さん)「ヨーロッパの統一とか平和とか、博愛に満ちたようなところがあって、敬虔なクリスチャンだし、そういうのもあってね、いっつも口癖のようにね、戦争、鉄砲、戦車いけませんよってね、あれはいけませんとか言ってね。人は一緒に仲良く暮らすのが一番だと会えば言っていた。ガザやウクライナの状況をもしご健在で知ったらね、おそらく何か行動するというか、黙ってなかっただろうなって気はしますね」
1983年、引退して帰国の途に就くレイモンさん。
集まった人たちにこう強く訴えました。
(カール・レイモンさん)「がんばってください。負けないでください。戦争なしで成功しましょう。刀使わないで道具使ってください。道具と頭、そして大砲なし。人殺ししない」
守り続けたソーセージ作り 受け継がれる「技術」と「味」
函館市内にある現在の工場です。
ここに、レイモンさんがデザインした旗が展示されています。
青に金の星ひとつ、ヨーロッパの統一と平和を願ってデザインされました。
これはのちに金の星が12個配置された「欧州旗」のデザインの基にもなっています。
(函館カール・レイモン工場 塚本政伸工場長)「ただハム・ソーセージを作っているおじさんかなと思ったんですけど、ものすごいこともやっていて、世界平和を願ったりとか、人に対する思いというのはものすごい人なんだなという風に感じましたね」
戦争に翻弄されながらも守り続けたソーセージ作り。
その技術と味は今に受け継がれています。
原料は北海道産の豚肉を使用。
調味料は塩などごくわずか。
手作業で素材の良さを引き出すのがレイモンさんのこだわりです。
手間を惜しまず、情熱と時間をかけてじっくり仕上げたドイツ伝統のハムとソーセージ。
工場見学に訪れた地元の高校生は、その味に思わず笑顔があふれました。
(高校生)「ちゃんと昔のものが受け継がれていて、機械だけじゃなくて手作業でやっている部分もあって、100年だけあってすごいなと思いました」
(高校生)「函館で作っているということ自体、誇りに思いました」
(函館カール・レイモン工場 塚本政伸工場長)「伝統を守りながら、さらに進化し続けるというレイモンさんの考えを取り入れて、続けていければと思っています」
帰国後、再び函館に戻り、93歳で永遠の眠りについたレイモンさん。
本物の味と平和への思いは今も生き続けています。
(カール・レイモンさん)「戦争なしで成功しましょう。刀使わないで道具使ってください。道具と頭、そして大砲なし。人殺ししない。がんばってください。負けないでください」