働く人への悪質な嫌がらせ「カスハラ」 罵声や暴言…SNSに晒す 増える被害に最新VR技術使った対策も

(動画)「一体どうなってるんだこの店は!?」「申し訳ありません、すぐに責任者を…」「ちげーよ、まずは土下座だろうが」
カスタマーハラスメント、略して「カスハラ」。
働く人への悪質な嫌がらせが問題になっています。
きょうのナゾは「カスハラ」です。
最近耳にするようになった言葉ですね。
「カスハラ」は、顧客が従業員などに対して行う不適切な言動や行為をさします。
表に出てきづらい働き手のハラスメント被害。
その実態に迫ります。
カスハラ被害の経験者 自治体職員の苦しい日常
(道内の自治体職員)「激高した状態で窓口に来ることも多くて、高圧的な態度や罵声を浴びせられることも多々あった形です」
辛い体験を語ってくれたのは、北海道内で働く公務員の女性です。
窓口で長時間怒鳴られるのは日常茶飯事だといいます。
(道内の自治体職員)「いつ手が飛んで来るか分からない状況というか。ずっと逃げるような体勢をとっているので、かなり全身に力が入って、だんだん震えてくる感覚もありますし、次の日に全身が筋肉痛になるような力み方を自分でその後にしていたんだなと思いました」
(宮永キャスター)「立場的にも精神的にもつらいですよね?」
(道内の自治体職員)「罵声というかそういうところに耐えられなくて退職する仲間もいました」
(動画)「早くして、いい加減にしろよ」
心無い言動で働く人の心身を壊す「カスタマーハラスメント」。
道は4月1日、全国初となる「カスハラ防止条例」を施行しました。
(鈴木知事)「本条例はカスハラ抑止に向けた強いメッセージ。現場のよりどころになる」
社会問題化する「カスハラ」を見かけたことがあるか、マチの人に聞いてみました。
カスハラの実態は? マチの人に聞いてみると…
(カスハラを見たことがある人)「お寿司屋さんですごい怒っているおじさんを見たことある。殺すぞとか早くしろとか言っていて、私たちもえええって、周りの人も怖くなっちゃって」
(カスハラを見たことがある人)「天候が悪くて電車がとまったとき、駅員は悪くないのに文句を言っている人はカスハラだと思う」
実際にカスハラを受けた人もいました。
(会社員)「電話とかでめちゃくちゃクレームを言うみたいな。ふざけんなとかお前頭おかしいんちゃうかとか、そこまでせんでよくないという感じ」
(元飲食店スタッフ)「会計し終わった後にお札をバンっとされたり、舌打ちされて去っていくところとか、すごい嫌な気持ちになるし、何でそういう態度をとるのかな」
(小売店スタッフ)「バーっと言われて自分も体調悪くなっちゃって。次の日仕事休んだりしたような感じ」
数々にのぼるカスハラ被害の証言。
アンケートでは30対30でほぼ同等の結果でした。
「カスハラを見たことがない」という人に話を聞くとー
(カスハラを見たことがない人)「カスハラの基準がどこまでか分からない。声を荒げたらカスハラなのか、暴力を振るったらカスハラなのか」
(カスハラを見たことがない人)「店員さんに非がある場合もあるかもしれない」
(カスハラを見たことがない人)「分かりやすいのは相手に土下座させるとか、今の社会的常識からやり過ぎだと思うけど、どこからがハラスメントなのかよくわからない」
カスハラの線引きは? 被害の多くは「威圧的な言動」や「暴言」
訪ねたのは、カスハラ防止に取り組む道内のNPO法人です。
(宮永キャスター)「どこまでがカスハラでどこまでが大丈夫なのか、その線引きですね。どういったものがカスハラか分からない声が多かったのですが」
(北海道勤労者安全衛生センター 木下真一事務局長)「腕を叩くとか髪を引っ張るとかははっきりしたカスタマーハラスメントと条例で定義されているし、声を荒げる、あるいは怒鳴る、そういうものがカスタマーハラスメントという風に私たちは定義している」
こちらのNPOでは道内9225人の労働者にアンケートを実施。
およそ4割が「カスハラ」を経験したと回答しました。
印象に残っているカスハラの半分は「威圧的な言動」や「暴言」。
相手を殴ったり土下座を強要したりしなくてもカスハラになりうるのです。
(北海道勤労者安全衛生センター 木下真一事務局長)「感情が高ぶった、特に怒りの場合は、すぐに言葉を出さないで5秒とか6秒、自分の今の感情をこらえる。そういったものをできるだけ多くの方に多くの場面で心がけて行動に移してほしい」
アンケートで寄せられた具体的な「カスハラ」の事例
アンケートでは具体的なカスハラの事例も寄せられました。
販売・営業職の30代男性は、「YouTuberと知り合いだから取り上げてもらう」「動画も回しているから晒す」と言われたといいます。
働く人を勝手に撮影し、SNSに投稿する行為はカスハラにあたる可能性があります。
さらに、金融・保険業の40代女性は、「これはカスハラではない」と前置きしてから、ハラスメント行為をする人が多くなったと話します。
もし「カスハラ」かもしれないと思うのであれば、相手がどう感じるか立ち止まって考えて、威圧的な言動を控えてほしいものです。
最新のカスハラ対策 クレームを2万件受けた元公務員が開発
北海道の防止条例が施行され、カスハラ対策に乗り出す職場が増えています。
中には最新技術を使った対策も登場しているのです。
全国で注目される最新のカスハラ対策がこちら。
(宮永キャスター)「カスハラに対応するため、こういったVRが登場しているのです」
(動画)「急いでいるので早く住民票出してください」「出勤前なの!早くして」
福岡県の企業が開発したカスハラ訓練システムです。
画面右側の選択肢で相手の態度が変わるため、リアルなカスハラ対応が学べます。
また、視線と連動して画面が動くVR技術を活用し、カスハラの緊張感を体験できるのです。
開発企業の社長は福岡市役所に長年勤めた元公務員です。
(めんたいバース企画 谷口良太社長)「クレームを2万件受けていました」
(宮永キャスター)「クレームを2万件も」
(めんたいバース企画 谷口良太社長)「すねを蹴られる、SNSにさらされる。諸々法的なものが絡むところまで色々受けてきました」
カスハラで苦しむ人を減らしたい。
その思いで開発したシステムには、飲食店や医療機関、学校などから問い合わせが相次いでいます。
(めんたいバース企画 谷口良太社長)「大切な従業員を守って、組織としては生産性を上げてほしいというのが一番にございます」
医療・福祉現場へのハラスメント=ペイハラ 特徴は「暴力」
(宮永キャスター)「札幌市西区にある病院にやってきました。こちらにはペイシェントハラスメント、患者によるハラスメントへの対応を進めているといいます。どんな対策をしているのでしょうか」
「ペイハラ」とは、ペイシェント=患者やその家族による医療・福祉現場へのハラスメントのことです。
ある調査では23.3%の人が殴る蹴るといったペイハラを受けたといい、ほかのカスハラより暴力被害を受けやすいのが特徴です。
(宮永キャスター)「実際にペイハラがあった場合、どうなる?」
(看護師)「皆が携帯しているPHS、あるいは固定電話で991番を押すと館内放送として流れる」
(宮永キャスター)「どんな音声が流れる?」
(看護師)「“コードホワイト コードホワイト”あとは起きた部署を2回繰り返してみんな参集する仕組みになっています」
(宮永キャスター)「いわゆるコードブルー、緊急事態発生と同じようなことになるのですね」
悪質な患者はごく一部。
「コードホワイト」はまだ使われたことはありませんが、スタッフの心の支えになっています。
(看護師)「駆けつけてみんなで対応してくれることでは安心感は強いと思う」
病院ではほかにも、ネームカードを苗字のみにしました。
ネット上でスタッフの個人情報が検索されることを防ぐためです。
(札幌孝仁会記念病院 名越智副院長)「委縮した中で医療を行うのは非常に弊害がある。患者さんにとってもはね返ってきてよくない。公明正大に医学的知識に基づいてちゃんとやるべきことができる関係性を保つ必要がある」
「カスハラ」は社会的な損失を生む行為
民間シンクタンクの調査では、「今の職場をやめたい」と思っている人の割合をカスハラ経験があるかで比較したところ、15.3ポイントも差が出ました。
道はカスハラで悩む人に対し、「ハラスメント・労働相談コール」の利用を呼びかけています。
番号は0120-81-6105。
ハラスメント・ロードーコールです。
働く人が相談しやすいよう、平日は午後5時から午後8時まで受け付けています。
カスハラで働き手が減ればサービスの質は低下します。
カスハラは客にも働く人にも社会的な損失を生む行為です。
自分はカスハラをしていないか、職場の仲間は苦しんでいないか、考えなおす必要があります。