クマに襲われる恐怖「かじられているのが分かった」住宅街での対策に新たな課題 配達員死亡から1か月

北海道福島町の住宅街で、男性がクマに襲われ死亡してから8月12日で1か月です。
町内ではいまも住民生活に影響が残っているほか、駆除された当時の状況を改めて取材すると、住宅街のクマ対策について新たな課題も見えてきました。
新聞配達員の男性を襲ったクマ 4年前には女性も…駆除の一部始終
7月18日未明の道南・福島町。
ただならぬ緊張感が漂っていました。
そして・・・
(山本記者)「いま大きな銃発音が鳴り響きました。住宅街に銃声が鳴り響きました」
福島町で男性を襲い死亡させたクマが駆除された瞬間です。
駆除されたのは体重218キロ。
年齢は8歳から9歳ぐらいのオスでした。
駆除の瞬間、その緊迫した様子を警察が話しました。
(函館方面松前警察署 権藤要署長)「ハンターの話では、草藪の中で音が移動していた。クマが(ハンターの)正面に行って、姿かたちは見えないが、ゆっくり近づいてくるのがわかった。ハンターも1~2歩下がってしまったそうですが、ぐっとこらえた。ヒグマは人を襲う前に頭を伏せるそうなんですが、ハンターの3メートルくらい手前で身をかがめた。この瞬間だということで発射した」
一か月前、新聞配達中だった佐藤研樹さん52歳がクマに襲われ死亡しました。
藪へと引きずり込まれた佐藤さんの遺体には、腹部を中心に多数の噛まれた痕がありました。
町内では当時、駆除されたと思われるクマの目撃が相次いでいました。
その後、クマの毛を分析した結果、4年前にも77歳の女性を死亡させていたクマだったとわかりました。
クマに襲われるという恐怖は、一体どれほどのものなのかー
クマに襲われる恐怖「かじられているのが分かった」
(福原誠章さん)「ガーッと引っかかれたと思う。頭蓋骨が割れて、病院に運ばれたけども、目はどうしようもなくて。2人ともよく助かった。奇跡だと思っている」
こう話すのは3年前、道南の松前町でクマに襲われた福原さん夫婦です。
福原さんは妻とともに自宅近くで畑作業をしていたところ、突然体長2メートルほどのクマに襲われたといいます。
鋭い爪の衝撃で福島さんは片目を失明、妻の春子さんも顔などを40針以上縫う重傷で、入院を余儀なくされました。
(福原春子さん)「大きい音とともに、パッと口の開いたクマが顔をのぞかせた。この辺からガリガリガリガリ (頭を)かじっているのがわかった。やっぱり(頭を)かじられていた。私の顔なくなっちゃうんだなと思った、その時は」
福島町のクマ襲撃は他人事に感じられなかったといいます。
(福原誠章さん)「かわいそうだな、かわいそうだな、まかり間違えば自分たちもそうだったなと。本当に胸が苦しくなる」
クマ駆除後も残る影響…福島町
男性が死亡した福島町では、クマが駆除された後も影響が色濃く残っていました。
(吉岡記者)「クマが駆除された現場から400メートルほど離れたビーチです。海水浴日和ではありますが、誰一人姿は見えません」
毎年夏休みに賑わうというビーチには、波の音だけが響いていました。
町内のヒグマ注意報は11日で終了しましたが、夏祭りや花火大会は中止となりました。
町民の不安な日々は今も続いています。
(福島町民)「クマの活動しない時間帯をねらって過ごしています。やっぱり買い物の回数は減りました。こわくて」
(福島町民)「ここを通っている映像を見てしまったので怖くて。駆除された後でも夕方になると外に出られないです。出ないようにしています」
町では今回のクマを駆除したあとも対策を進めています。
町は生い茂っていた草やぶの大部分を刈り取りました。
クマは草やぶに沿って住宅街に近づくためです。
また、駆除されたクマはゴミ置き場の生ごみを狙って何度も出没していたため、町はゴミ出しのルールを徹底するよう今も呼び掛けています。
さらにー
(吉岡記者)「何度もクマの目撃があった住宅街のすぐ近く、山沿いの道には電気柵が設置されました。1.5キロにわたって続いています」
町ではクマ対策費としておよそ2800万円を盛り込んだ一般会計補正予算案が可決されるなど、クマ対策に追われています。
2025年のクマに関する警察への通報は7月末までで2003件と、過去10年で最多の通報件数だった2023年を上回るペースです。
道南ではクマによる食害が連日のように発生しています。
専門家は、猛暑の影響でクマのエサが不足していると指摘し、今後もより警戒が必要だと訴えます。
(酪農学園大学 佐藤喜和教授)「8月に入ってクマのエサ不足が深刻になっている。未然の防除がきちんと行われたうえで、それでも人の生活圏に入ってくるクマに関しては適切に駆除していくことが大事」
しかし、9月以降再びクマが現れたらー
町は新たな課題に直面することになります。
改正鳥獣保護管理法 発砲の判断と責任は「自治体」に…新たな課題も
(吉岡記者)「ハンターは警察からの発砲命令を受けてこの場所でクマを駆除しました。しかし9月からは、市町村の責任でハンターが発砲することになります」
9月1日、改正鳥獣保護管理法が施行されます。
これまで原則禁止されていた市街地での銃を使ったクマ駆除が、住民の安全確保などの条件を満たせば可能になります。
ただ、発砲の判断と責任は自治体が負うことになります。
今回福島町でクマが駆除されたのは、発砲が原則禁止されている住宅街の中の茂みでした。
警察が発砲の判断をしましたが、クマがいた茂みがなだらかな坂になっていて、その下にある地面に銃弾があたっても、人や民家に到達するのを遮る壁「バックストップ」になるとして、発砲を許可したといいます。
(函館方面松前警察署 権藤要署長)「人への危害が絶対に及ばないこと、バックストップが確保されていることなど、その場の状況に応じて安全性をその都度判断していく難しさはあります」
今後、状況に応じた判断が自治体の職員に求められますが、職員たちは限られた人数で看板設置やパトロールなど、クマ対策に追われているのが現状です。
(福島町 鳴海清春町長)「我々は予算・人的制限もあってその中でやっている。今だって職員が寝ないでやっているわけですから、やれることは最大限やってきたつもり」
さらに、9月から発砲を判断することについて問われるとー
(福島町 鳴海清春町長)「いくらいいことを言っても我々は素人でありますので。ハンターの判断を我々が後押しするような形で判断する」
今まで発砲の判断を担っていた警察は、関係機関が今まで以上に普段から連携する必要があると指摘します。
(函館方面松前警察署 権藤要署長)「役場とハンターと警察が同じ温度感で対処することが重要。訓練などを通して意思疎通を図って信頼関係を築いておくことが大切」
男性がクマに襲われた死亡してから1か月。
クマと人が共存するためにー
自治体は、ハンター・警察との新たな体制づくりという新たな課題に直面しています。