人材不足に赤字経営 苦境に立つ訪問介護「2025年問題」が現実に…事業者の倒産“過去最多” 北海道

2025年は「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者になります。
高齢化が加速する中、介護業界の人材不足「2025年問題」が現実のものとなっています。
苦境に立たされている訪問介護の現場を取材しました。
日常生活の援助も 訪問介護は「命綱」
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「おはようございます。ヘルパーです」
札幌市内の訪問介護のヘルパー・藤井真希子さんです。
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「お、転んでたか。どのくらい前に転んでたの?」
(利用者)「12時くらいかな」
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「12時!?夜中!?いやーちょっと!電話できなかった!?」
パーキンソン病を患っている60代の男性です。
ベッドから転落し、9時間以上も倒れたまま動けなくなっていました。
1人で男性を抱え、ベッドに戻します。
ひとり暮らしの男性は、病気の影響で体を思うように動かすことができず、介護が欠かせません。
(利用者)「パンください」
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「パンね」
訪問介護は入浴や排泄などの身体介護だけでなく、食事の準備や掃除、買い出しなど日常生活の援助も含まれます。
自宅で暮らしたいという男性にとって、訪問介護はまさに「命綱」です。
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「朝の薬飲んじゃうかい?」
(利用者)「毎日来てくれるのと細かいことをやってくれる。やっぱりうちの方がいい。病院は24時間管理されるから」
分刻みのスケジュール…午前中だけで6件訪問
藤井さんが介護職に就いたのは、祖母の認知症がきっかけでした。
祖母の介護に追われ、生活がままならなくなる父の姿を見て、介護職の必要性を実感したといいます。
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「(介護で)家族が疲弊している方もいるので、そこをお手伝いできていると感じることがやりがいです」
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「おはようございます」
次に訪れたのは、認知症の女性宅です。
スケジュールはまさに分刻み、午前中だけで6件もの利用者を訪ねます。
体力的にきつい仕事でも、利用者から感謝されることで苦労に思わないという藤井さん。
介護職は天職と感じています。
Q.藤井さんはどんな方?
(利用者)「とにかく優しい方。ね!いつも笑顔!」
(利用者)「もう帰るの?」
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「もう帰ります」
(利用者)「どうして?」
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「次のところ行かなきゃ」
(利用者)「ごくろうさま」
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「失礼します」
「あまり定時で帰れることはない」依頼は年々増加、人手不足が深刻
訪問介護は、住み慣れた家で生活したいという高齢者を支える「最後の砦」ともいわれています。
しかし今、崩壊の危機に直面しています。
「団塊の世代」が全員75歳以上となる2025年、およそ5人に1人が後期高齢者となります。
高齢者の割合は右肩上がりとなる一方、介護職員はほぼ横ばいで、2040年には57万人が不足する見通しです。
藤井さんが勤める訪問介護の事業所です。
職員の数がほぼ変わらない中、介護の依頼は年々増えるばかり。
管理者の藤井さんがヘルパーを兼務するなど、人手不足が深刻化しています。
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「新規の相談もほぼ毎日のようにあるので。お断りするケースもあるんですけど、なんとか調整しながら受けていこうっていうのは事業所全体でやっていますけど、限界はありますよね」
訪問介護が終わっても藤井さんの1日は終わりません。
夜になってから介護のカルテ作成に追われ、11時間以上働く日も少なくないといいます。
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「お疲れ様でした。真っ暗ですね。あまり定時で帰れることはないですね」
介護事業の倒産増加「危機意識を」基本報酬引き下げで赤字経営
東京商工リサーチによりますと、2024年に倒産した介護事業者は過去最多の172件。
このうち訪問介護は81件と、こちらも過去最多となりました。
背景にあるのは「基本報酬の引き下げ」です。
国は、ほかの介護サービスと比べて訪問介護の利益率が高いことを理由に、2024年4月、報酬を引き下げました。
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「経営に不安しかないというのが正直なところかなというふうに思っていて。うちの事業所は赤字経営になっています」
藤井さんの事業所では年間およそ120万円の減収となり、基本報酬が引き下げられてから赤字が続いています。
介護制度に詳しい専門家は強い危機感を抱いています。
(北星学園大学社会福祉学部 安部雅仁教授)「今2025年問題といわれていますけれども、これはあくまでも通過点・経過点であって、深刻な問題はこれから先確実に起こりますので、早急に手を打つ必要があるわけです。しっかりした制度を構築して、我々国民1人1人が問題意識、ちょっときつい言葉でいえば危機意識を持って、介護のあり方を検討する必要があるんじゃないかと思います」
需要が高まる「訪問介護」 求められる“早急な対策”
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「いける?せーの、よいしょ、すごい」
人手不足と赤字経営に苦悩する訪問介護の現場。
ヘルパーの藤井さんは、不安を抱えながらも利用者の思いに応えたいという強い使命感を持って介護にあたっています。
(利用者の家族)「最初は兄妹でなんとか(介護)できると思ったけど、足が不自由なので玄関で転んでいることもあって、その時助けてくれたのもヘルパーさんで、すごくお願いしてよかった」
(勤医協北ヘルパーセンター 藤井真希子さん)「地域の方を支えていくのは訪問介護しかないと思う。なので、やっぱり訪問介護事業が今のままだと大丈夫なのかなというふうに実感しています」
今後、需要が爆発的に高まるとされる訪問介護。
高齢者の命と健康を守るために早急な対策が求められます。
利益率が低い地方「地域差の考慮」が必要
訪問介護の報酬が引き下げられた理由は、介護サービスの平均利益率が2.6%なのに対し、訪問介護は7.8%と突出して高くなっているのです。
訪問介護は、通所リハビリテーションなどのように施設が必要なく、経費としてかかるのが人件費のみのため、利益率が高くなっています。
利益率が高いのになぜ倒産している事業者が増えているのか…
実は地域によって実情が大きく変わります。
全体としては利益率は高いですが、都市部と地方では差があります。
介護報酬は時間単位で決められています。
都市部はサ高住など集合住宅で効率的に回ることができますが、地方の場合、1件1件を回る必要があります。
移動時間は介護報酬の対象にならないため、地方は利益率が低いのです。
このような現状を国は平均して利益率として計算したので、数値上の高い利益率と地方の事業所の苦しい経営状況に乖離が出てしまいました。
こうした現状を受けて、北星学園大学の安部教授は、地域差を考慮して基本報酬を決める必要があると指摘。
また、基本報酬を引き上げて訪問介護が適切に運営されることで、介護離職者などが減り、社会経済全体の維持・安定につながるということです。
社会全体の課題として考える必要があります。
基本報酬を引き上げる際の財源をどうするのかなどは国民的な議論が必要です。