島民の"かかりつけ医" 人口1800人のマチで奮闘 離島医療の課題とは…総合診療医に密着 北海道・利尻島

北海道・利尻島で島民たちの命を守ろうと奮闘する医師がいます。
内科から外科まで体全体を診療する島民のかかりつけ医。
日々患者に寄り添う中で見えた離島医療の課題とはー
離島の医師に密着 漁業のマチならではの「けが」も
(浅井悌院長)「胸どきどきしたりはないよね」
(女性)「ないです」
(浅井悌院長)「足のむくみとかは?」
生活習慣病の受診に来た70代の女性。
診察するのは、医師の浅井悌さん(51)です。
(浅井悌院長)「今の運動量だったらいいけど、ちょっと拾いコンブとか減ってきて体動かすの減ると、お食事の量もね、ちょっと気を付けてくださいね」
次にやって来たのは漁師の男性。
(浅井悌院長)「サケもう始まるんじゃないの」
(男性)「水温高いからね。なんとも言えないわ」
浅井さんが診る患者のほとんどが、離島の住民です。
(女性)「(浅井先生は)親切だし話しやすいし。お父さんも浅井先生を気に入って。だからここまで来るのさ」
北海道の北・日本海に浮ぶ利尻島。
島のシンボル「利尻山」は日本百名山の一つ。
その湧水によって良質なコンブやウニが育ちます。
漁業と観光のマチ・利尻町の人口はおよそ1800人。
浅井さんは島の医師として働いています。
漁が盛んなこの時期に増えるけがも…
(浅井悌院長)「触って痛い?」
(女性)「いや、大丈夫です」
(浅井悌院長)「違和感があるよね?ここなんだよね?」
(女性)「はい」
ウニの殻むき作業中に刺さったトゲが指の中に残って炎症を起こしていました。
その場ですぐに治療を始めます。
(浅井悌院長)「一番先のトゲってもろいので。刺さって痛いとなるので、そのときに大概(指の)中で折れちゃう。放っておくと結構イボみたいに大きくなる人がいて。ちょっと腫れてきているので、取ってもいいのかなと」
(浅井悌院長)「気分は大丈夫?」
(女性)「大丈夫です」
手術を始めて30分…
(浅井悌院長)「これは小っちゃいね~」
1ミリにも満たない小さなトゲを無事に取り除くことができました。
内科から外科まで体全体を診る「総合診療医」
(浅井悌院長)「おはよう」
(母親)「ちゃんとごあいさつしてください」
(子ども)「おはようございます」
誤ってナイフで指にけがをした小学生がやってきました。
(母親)「また釣りかって先生に言われるかなと思ったんですけど」
(浅井悌院長)「そんなことないですよ」
子どもから大人まで、多い日には100人の島民が訪れます。
病院の医師は4人。
浅井さんは内科から外科まで体全体を診ることができる「総合診療医」です。
(浅井悌院長)「その人すべてをまずは総合的に診るというところで。まずはやってみる。これがないからできないということはなるべく口にして言わないようにして、いま持ってる資源と知識と能力で、その人・患者さんに接していくというふうにみんなで努力しています。もっと資源の限られたところで医療をしていた経験があるので」
2017年に利尻島に移住してきた浅井さん。
その前は大阪の病院で救急医療に携わりながら、アフリカの難民キャンプに参加した経験もあります。
趣味の登山で訪れた北海道に魅了され、縁あって利尻島に移り住みました。
(浅井悌院長)「急に先生が辞められて困っているんだったら、行ってなんとか助けになれたらいいなという思いで来ました」
離島の課題は「がん検診」の受診率
(浅井悌院長)「ちょっと気になるのは、最後に胃カメラしたのがかなり前になるのかな。人間ドッグとかには行ったりはしてるの?」
離島に赴任してから9年。
浅井さんはある課題を感じています。
(浅井悌院長)「健康的に問題ない人は病院に来ないので、そういった人のがん検診をどういうふうに進めていくかというのが一つの課題かなと」
利尻町では日本人に多い「胃がん」の検診受診率は10%未満。
5大がん検診の受診率も25%ほどで、国が目標とする60%を大きく下回っています。
コンブ漁が最盛期を迎えている利尻町。
町民の2割以上が漁業などの一次産業に携わっています。
がん検診について聞いてみるとー
(漁師)「がんにあまり馴染みないかもしれないですね」
(漁師)「(人間ドッグは)去年から受けるようになりました。漁師さんは個人事業主で、自分で申し込まないとそういうのも受けないような感じなので、受診率が低い要因になっているのかなと」
そこで町は6月、企業と手を組み、受診率を倍増させるプロジェクトを立ち上げました。
健康診断を申し込んだ人には町内の店で使える商品券を配布。
(役場の職員)「一押しのこの商品と交換するよみたいなことが」
(店の人)「うちは私の自慢のホッケのかまぼこ」
さらにこんなイベントも…
現れたのは、サッカー元日本代表の本田圭佑さん。
(本田圭佑さん)「肺がん検診を受けたことがあるっていう人、手を挙げてもらっていいですか?めっちゃ少ないです」
町民はクイズを通してがんの早期発見の重要性を学びました。
(利尻町 上遠野浩志町長)「“環境が作る健康”というテーマで、町内の事業所・商店・小中学校や病院と共に取り組む形をつくりましてね。地域全体が町民の健康を支える基盤をつくりたいなと」
浅井さんの病院でも町と連携して、胃がんや肺がんの検診に力を入れていく方針です。
(浅井悌院長)「ごめんね。横向きます。肩しんどくない?大丈夫?」
(男性)「大丈夫」
この日、転倒して頭部から出血した救急患者が運ばれてきました。
研修医とともに男性の治療にあたります。
(浅井悌院長)「どこまで?骨までいってる?」
(研修医)「いってないです」
(浅井悌院長)「終わったよ」
(男性)「ああ、そうなの。早いんだ」
(浅井悌院長)「上手にやってくれたわ」
(男性)「ああ、そうかい、ありがとう」
浅井さんは島民のかかりつけ医として、日々患者に寄り添います。
(浅井悌院長)「総合診療の立ち位置としては、誰かを治すというスタンスではなくて、みなさんのサポーターなわけですよね。できる限りサポートさせていただくというのがつとめかなと思っています」
離島にいるからこそ、病気の予防意識を高め、いかに島民の健康を守るのか、医師と町の取り組みは続きます。