ニュース

NEWS

再エネ促進か、自然保護か… 法整備が追い付いていない現状 転換期のメガソーラー 釧路湿原周辺

北海道・釧路湿原周辺で大阪の事業者が進めるメガソーラー建設は、道が一部の工事中止を勧告する事態にまで発展しました。

再生可能エネルギーの促進か自然保護か。

法整備が追い付いていない現実が浮き彫りとなっています。

希少な動植物が生息 「釧路湿原」で進むメガソーラー建設

釧路平野に広がる釧路湿原国立公園です。

日本最大の湿原の中には、特別天然記念物のタンチョウをはじめ、オジロワシなど希少な動植物が生息しています。

その湿原周辺では、メガソーラーと呼ばれる大規模な太陽光発電所の建設が相次いでいます。

ところがー

(釧路市 鶴間秀典市長)「過去に例を見ない事案が発生したことは誠に遺憾」

大阪の事業者が進める工事現場で、希少生物への影響の懸念や森林法違反の開発が発覚。

メガソーラー建設から見えてきた課題とはー

(長野記者)「今回の問題となっている工事現場は、釧路市の中心部から離れた郊外の一角にあります。現在は更地が広がっていて、奥にはタンチョウの姿も確認できます」

ここには、およそ6600枚のソーラーパネルが設置される予定です。

開発を進めるのは、大阪に本社がある「日本エコロジー」。

松井政憲社長は事業の正当性を強調します。

(日本エコロジー 松井政憲社長)「私たちは無秩序な開発ではなく、地域と共生する再エネを目指していきます。方針は一貫して“法令遵守・環境保全・地域協働”」

今回、釧路市と日本エコロジーの間で見解が異なっているのが、希少生物への影響についてです。

希少動物への影響はー 縦割りチェック体制が“問題を複雑化”

市のガイドラインでは、工事を始める前に、文化財保護法の対象となる希少生物の生息調査を求めています。

40年以上タンチョウを研究している百瀬邦和さん。

日本エコロジーから生息への影響について助言を求められたといいます。

(タンチョウ保護研究グループ 百瀬邦和さん)「エサを取りにくる可能性はある。ただ、全体的な評価としては、湿原が広がっているので、この地域(の湿原)が失われることが特別タンチョウにとって重大な影響を及ぼすものではない、という見解を述べました」

日本エコロジーはその助言などをもとに、生息調査の書類を市教委が管轄する釧路市立博物館に提出しましたがー

(釧路市立博物館 秋葉薫館長)「いただいているものはあるが、その中で影響の評価に至っているものがない」

調査の時期が適切ではなく、データなどが揃っていないことから、市は再提出を求めています。

これに対し、日本エコロジーは…

(日本エコロジー 松井政憲社長)「調査会社や専門家は釧路市側から紹介をもらっていたので、弊社としては疑義がなかった。その辺が最終的に食い違いとなって、齟齬の部分だと認識している」

認識の違いが埋まらないまま、2025年の春から工事が始まりました。

(釧路市立博物館 秋葉薫館長)「保存の影響が軽微か評価させてもらうことが何よりも大事。それがない中で着工されたのは極めて遺憾である」

釧路市でメガソーラーを建設する場合、ガイドラインに沿って市の環境保全課に届け出を提出。

一方、文化財保護法に関する調査は市教委が確認するなど、担当部署が分かれています。

工事を始めた理由について、松井社長はー

(日本エコロジー 松井政憲社長)「ガイドラインの受理をいただいておりまして、そのものこそが着工に値すると認識している」

届け出が受理されたと主張。

一方、市の環境保全課はー

(釧路市市民環境部環境保全課 西村利春さん)「その受理によって工事を許可したという仕組みではない」

(記者)「許可をもらったという主張は間違い?」

(釧路市市民環境部環境保全課 西村利春さん)「そうですね。我々は受理して、法令順守をお願いして指導する立場です」

縦割りのチェック体制も、今回の問題を複雑化させている要因の1つです。

森林法に違反発覚も… 太陽光パネル設置を規制する法律なし

事態が動いたのは9月2日。

(道庁職員)「森林区域において約0.8ヘクタールの開発行為が確認され、工事の中止を勧告した」

0.5ヘクタール以上の森林を伐採するときに必要な道への届け出がなく、森林法に違反していることがわかりました。

(日本エコロジー 松井政憲社長)「地域の皆さまに多くのご心配をおかけしていることをお詫び申し上げます。(工事の)停止期間は1か月~1か月半を目安としている。今後は丁寧な協議をして事業を継続していきたい」

先週、釧路市北斗の建設現場を視察した国会議員はこう課題を指摘しました。

(鈴木貴子衆院議員)「事業者側・環境保護団体・自治体側それぞれの意見の食い違いがあることや、解釈の齟齬を生んでしまった背景には、我々立法府の責任がある」

メガソーラーは経済産業省が推し進めるいわば国策です。

建築基準法では太陽光パネルは建築物にあたらず、設置を規制する法律はありません。

再生可能エネルギーの専門家は…

(北海道自然保護協会 佐々木邦夫常務理事)「太陽光発電は建築基準法から外れて電気事業法という扱い。そのため設置の規制もなく、ここは建てるべきじゃないだろうという意見があったとしても、事業者は法に従って動く」

釧路市内には10年前のおよそ4倍・600以上の太陽光発電所があり、今後もさらに増えていく見込みです。

対策始めた自治体も 民有地購入で“景観を保護”を検討

相次ぐメガソーラー開発に対策を始めた自治体があります。

(長野記者)「村が購入の方針を固めた民有地はあちらの斜面の辺りです。メガソーラーの建設が計画されていました」

釧路市の隣・鶴居村では、景観を保護するため民有地の購入を検討しています。

その民有地は以前、日本エコロジーが地元の意向を受け、建設を断念した場所でした。

冬になればタンチョウの撮影スポットで有名な音羽橋から見える位置にあります。

ただ、これが自治体ができる数少ない対策のひとつです。

市民の立場から自然を守ろうとする人がいます。

釧路市に住む今井亨さん。

これまで釧路湿原の雄大な自然や動植物を写真に収めてきました。

今井さんがいま市に求めているのは、釧路湿原国立公園の区域拡張も含めた調査や検討です。

(今井亨さん)「希少な動植物は世界の財産ですので守っていきたい」

熊本県と大分県にまたがる国立公園では2025年2月、環境省が自然公園法を見直し、全国で初めてとなるメガソーラーの規制を目的とした区域拡張を決めました。

地元から自然保護を強く要望されたためです。

釧路市は環境省との意見交換で、国立公園の拡張を含め、自然を守るための法整備を要望しました。

(浅尾慶一郎環境相)「メガソーラーを含めて関係省庁が多岐にわたる。関係省庁間で課題を共有した上で、制度的な対応の要否も含めて国としての対応をしっかりと検討していきたい」

釧路市ではメガソーラーの建設を市長の許可制とする条例案を市議会に提出し、17日にも採択される見通しです。

条例に違反した場合は企業名を公表するとしていますが、工事の中止を求めることはできません。

専門家の佐々木さんは、条例を施行した後が重要だと話します。

(北海道自然保護協会 佐々木邦夫常務理事)「条例を動かしてからも問題が出る可能性ある。ですから条例改正も必要。長い目で見た条例づくりが重要になってくる」

(長野記者)「今回の工事を巡ってメガソーラー建設における自治体や国の課題が浮き彫りとなりました。再生エネルギーと自然の調和がどのように図られるべきのか、いま転換期を迎えています」

09/27(土) 14:23

ニュース