【詳細】給食が喉に…1歳男児死亡事故 “大きすぎる食材”や“異なる認識”当日の様子明らかに

札幌市北区の私立認可保育所「アイグラン保育園拓北」で2024年10月、1歳の男の子が給食中に食べ物を喉につまらせ死亡した事故で、検証ワーキンググループは2025年9月10日、札幌市長へ検証報告書を提出しました。
報告書では、「離乳食の食材の大きさが不適切であったこと」や「119番通報が遅れた可能性」などが指摘されました。
男の子の死因は、食事に含まれていた薄切り肉が気道内に詰まったことに伴う気道閉鎖による窒息でした。
報告書では、事故当日の状況や園の対応の問題点などが示されました。
豚肉を食べ…苦しそうな様子見せた男の子
事故当日、男の子はプラスチックの車やブロックで遊ぶなどして過ごしていました。
男の子の食事は、専任の栄養士が離乳食の調理をしていて、献立に応じて幼児食とは別に調理する、または幼児食から取り分けて再調理するなどしていました。
食べやすいように柔らかく、おおむね一辺1~2センチ以下四方、手づかみすることを想定してスティック状に加工していました。
男の子は午前11時ごろからベビーチェアに座って食事を始め、食事中に機嫌が悪い、眠たいといった様子はなかったということです。
食事では、保育士が1対1で男の子の咀嚼ペースに合わせて対応。担当していた保育士が席を立ったり、他の園児と関わったりすることはありませんでした。
子ども用のスプーンを使用し、ご飯、野菜、肉、お茶、汁物の順に、2口ずつ口に運んでいて、1口の量はご飯すりきり一杯、野菜は半分以下程度でした。
その後午前11時8分~9分ごろ、献立のひとつである焼き肉風炒めのうち、2口目の豚肉(スプーンに乗せたのは1切れ)を食べさせたときに、男の子が嘔吐しようとするような苦しそうな様子を見せたため、保育士が背中を叩き、見えた肉を指で取り出し、再度背中を叩くと小さめの肉片が口から出てきました。
男の子の顔色が変わり…意識戻らないまま救急隊が到着
保育士が男の子を椅子から降ろし、救命措置(背部叩打法)を行いましたが、男の子の顔色が変わっていく様子が伺え、その後乳児クラス担当のもう1人の保育士に交代し、救命措置をしながら職員室に連れていきました。
園長に報告しましたが、この時点で男の子はぐったりとしていて、チアノーゼ状態でした。
園長の判断で119番通報(午前11時10分ごろ)し、保育士が保護者へ連絡。乳児クラスの保育士ともう1人の保育士が、消防指令センターの指示を受けながら胸骨圧迫と人工呼吸を実施しました。
男の子の顔色は白くなり、口をあけてパクっとする瞬間はありましたが、意識は戻らないまま、午前11時18分ごろ救急隊が到着しました。
男の子に持病などがあったとの情報はなく、食事を含めて保育の実施に際して特別な配慮を要するということはありませんでした。
当日、男の子に提供された食事
・軟飯(水を多めにして柔らかく炊いたもの)
・豆乳味噌汁(約2~3ミリにカットしたエノキダケ、約5ミリ×3センチにカットした白菜、約5ミリ×1.5センチにカットしたニンジンなど)
・焼き肉風炒め(1~2センチの大きさにカットした豚もも肉、約5ミリ×5ミリのタマネギ、マッチ棒くらいの太さのニンジン、約7~8ミリにカットしたニラなど)
・キャベツのお浸し(約1センチの角切りキャベツなど)
・ヨーグルト
咀嚼力に合わない“大きな肉”
男の子の離乳食の段階について、園の関係者や保護者へのヒアリングで「完了期ではあったが、後期の具材の大きさなどに合わせて進めている」「完了期に近かった」との回答がほとんどで、離乳後期から離乳完了期への移行期であったとみられています。
札幌市保育所等給食管理運営指針によりますと、移行期の園児に提供する食材の大きさの目安は、完了期であれば硬い食材は1センチくらいに切るとされていることから、今回、男の子に提供された薄切り肉は少なくとも1センチ以下の大きさで提供するのが適切でした。
しかし、実際に提供された食事の薄切り肉は、残っていたものが約2センチ×1.5センチで、提供された食事が男の子の咀嚼力に適合していなかったということです。
「離乳段階」保育士と栄養士で異なる認識
保護者や保育士は、男の子の離乳段階について「完了期に近いものの後期」という認識であった一方で、栄養士は「完了期」と認識していました。
栄養士は、子どもたちが食事している様子を見るために各クラスに行くようにしていましたが、男の子が所属していた0歳児クラスについては、「給食の配膳があり、見に行くことができず把握が難しかった」と説明していて、配膳スケジュール上の困難がありました。
保護者との連絡は担当保育士が行っていて、栄養士は子どもの情報をすべて保育士を介して得ていました。
保育士と栄養士のやり取りでは、「おいしそうに食べていた」「問題なく完食していた」などの情報で伝えられていて、咀嚼・嚥下の状況について共有されていませんでした。
また、乳歯の本数についても、保育士は把握していましたが、栄養士と共有していませんでした。
保育士や園長は、食材の大きさについて、栄養士の判断を専門職の判断として信頼していたとみられています。
さらに離乳段階が同時期の園児はおらず、男の子ひとりのために調理していた点も、保育士が食事の適切性を判断する上で影響したのではないかということです。
“認識の違い”は保護者と園の間にも…
事故の原因となった薄切り肉について、担当保育士と栄養士は家庭でも食べていることを確認し、園が提供する予定の大きさなども説明し承諾を得たとしていますが、実際には、家庭で薄切り肉は使用しておらず、ひき肉以外の肉は数ミリ程度に刻んでいました。
家庭で食べることができる食材を確認するために「離乳食食材一覧表」を使用。表では豚肉に丸が付けられていましたが、保護者は肉の形状ではなく、種別について回答したつもりだったとしていて、確実な情報の確認、共有ができていなかったとされています。
救命処置のマニュアル「目を通したことがない」職員も
園の安全管理マニュアルでは、事故発生時の対応として大声で人を呼び、119番に連絡することが記されていましたが、それがされないまま背部叩打法が行われていて、マニュアルとは異なる対応でした。
事故発生から119番通報まで1~2分の遅れがありましたが、担当保育士は「園に備え付けのマニュアルに目を通したことがない」、乳児クラスの保育士は「マニュアルの存在は知っているが、読み合わせはしていない」としていて、一連の救命処置のフローについて職員間で共通理解があったかどうか疑問があり、定期的な読み合わせをして緊急時に備えるべきだったと指摘しました。
報告書では、家庭と園の職員らで園児の離乳に関する情報を確実に共有することや、離乳安全管理マニュアルの更新、離乳食に使用する適切な食材の加工の徹底などをするように提言しました。