北海道にひとつだけのPICU 病床数不足に課題 地方から集まる“子ども”と“家族” 小さな命と向き合う現場

北海道内に1つしかないPICU=小児集中治療室。
高度な医療を必要とする子どもがいる一方で、病床数が不足しているのが課題です。
小さな命と向き合うPICUの現場を取材しました。
1歳の誕生日を迎えた坂見優歌ちゃん 治療を続ける場所は「PICU」
(家族)「お誕生日おめでとう!」
(父・坂見慶明さん)「飾りつけしてくれました。優歌くん1歳です」
2025年5月、1歳の誕生日を迎えた坂見優歌ちゃん。
(兄・春依くん)「お誕生日、1歳!うれしい!」
生まれてから、ほとんどの時間を子どもの集中治療室・PICUで過ごしてきました。
(父・坂見慶明さん)「よく優歌も頑張ったなというのが一番最初かな。こんな小さい心臓から手術して乗り越えてきてくれた」
道内唯一のPICUは、札幌市手稲区にあります。
道立子ども総合医療・療育センター「コドモックル」です。
運ばれてくるのは、命の危険がある小さな子どもたち。
(医師)「では抜管しますか」
体の大きさに合わせた小さな医療機器を使って、高度な治療が続けられます。
6床あるベッドはほぼ満床状態。
広い北海道に住む子どもたちを札幌の病院1つでカバーしているのが大きな課題となっています。
(小児集中治療科 市坂有基医師)「(全国の)ほかのPICUも搬送はありますが、ここまで広域な搬送は類を見ない。距離も、場合によっては400キロくらいを陸路で4~5時間くらいかけて来てもらう、負担の大きな搬送になってしまうのが北海道の難しさかなと思う」
PICUでしかできない治療を受けるため…地方から集まる“子ども”と“家族”
(兄たち)「これが優歌用で、これが春依用」
PICUで1歳を迎えた優歌ちゃんの家族は、北斗市に住んでいます。
仕事や学校があるため、頻繁に面会に行くことはできません。
(兄・空桜くん)「これが優歌で、これが春依で、これが空桜で、これが風羽」
優歌ちゃんは4人兄弟の末っ子として、函館市内の産婦人科で生まれました。
しかし、ミルクの飲みが徐々に悪くなり、すぐに連携している地域の大きな病院へ緊急搬送されました。
(こじま産婦人科 小島崇史副院長)「生まれてみて異常に気づくこともあるので、それぞれの専門性を最大限に発揮して、安全に赤ちゃんを守り抜くのがカギになると思う」
何度も手術を乗り越え… 優歌ちゃんの母「もっともっとこういう病院が増えていくといいな」
ドクターヘリで札幌のPICUに搬送された優歌ちゃん。
心臓の一部が小さい難病の左心低形成症候群と診断されました。
(小児集中治療科 市坂有基医師)「ちょっと起きていますね」
生後18日目の優歌ちゃんです。
搬送されてすぐに手術を受けました。
小さな身体で何度も手術を繰り返してきた優歌ちゃん。
(父・坂見慶明さん)「2ミリの血管にバンドをしているのを少し緩めて、血流を肺にいくようにする手術みたいなので、想像できないよね」
2024年12月には、大きな手術を受けました。
(母・坂見亜由美さん)「(手術時間は)8時間から12時間。心臓の手術の中で一番難しいといわれるくらい。不安も心配もいろいろ。でも待ってるよって送ってあげました」
(家族)「がんばれ~、優歌がんばれ~」
家族の応援に支えられ、長時間の手術を乗り越えました。
7月、久しぶりに家族そろって面会に行きます。
出発は午前6時、およそ4時間かけて札幌の病院へ向かいます。
(父・坂見慶明さん)「久しぶりだよね。あまり頻繁に来れるわけではないので」
(父・坂見慶明さん)「ちょっとよそ行きの顔してる」
(母・坂見亜由美さん)「笑ってるの?」
(看護師)「呼吸器の圧を下げてみたけどそんなに苦しそうな感じもなく、酸素も下げてみた」
(母・坂見亜由美さん)「トレーニング中だったの、がんばってる」
優歌ちゃんの病状は一進一退の状態が続いています。
(母・坂見亜由美さん)「ここがないと、本州とか遠くに行かなきゃいけなかったので、あってよかったな、もっともっとこういう病院が増えていくといいなと思います」
病床数が不足している道内 北大病院にもPICU設立へ
PICUは全国で38施設に設置されていますが、都市部に集中しています。
近畿地方ではベッド1床あたりの子どもは2万8000人。
一方、北海道では9万6000人に対し、1床しかありません。
こうしたなか、新たにPICUを設置する動きが出ています。
北大病院の集中治療室に運ばれてきたのは、10代前半の男の子です。
(北海道大学病院小児科PICUグループ 泉岳医師)「心臓あるいは肺の病変ができたことによって呼吸が苦しくて、それからだるさがあって入室依頼があった」
北大病院には子ども専門の集中治療室はなく、これまで大人のICUで小児患者を受け入れてきました。
(北海道大学病院小児科PICUグループ 泉岳医師)「大人と子ども合わせて11床になっています。11床のうち最大で(子どもが)4人くらい入っていることもありますね」
北大病院は2030年代の前半に建て替えを予定していて、PICU8床の運用を目指し、人材育成に取り組んでいます。
(北海道大学病院小児科PICUグループ 泉岳医師)「地方からの患者さんの専門的な治療を必要とするお子さんの受け入れを増やすことができる。患者さんの負担を軽減することになるし、家族の幸せにもつながる。北海道全体の小児医療の底上げになるんだということを知っていただきたい」
家ではできなかった“家族6人の時間”をPICUで…
(兄たち)「優歌、おいしい?」
今週になって優歌ちゃんの病状が悪化。
函館から急きょ、家族が駆け付けました。
生まれてから家ではできなかった家族6人の時間を過ごします。
そして8月7日、優歌ちゃんは父親と兄の風羽くんに抱っこされながら短い生涯を終えました。
(母・坂見亜由美さん)「1年を通して優歌に関わっていただいた医療従事者のみなさまには大変お世話になりました。優歌が頑張れたのも、先生・看護師さん・リハビリの先生のおかげです。兄弟の時間も作っていただきありがとうございました。とても喜んでいました。ありがとうございました」
集中治療を必要とする子どもと家族のために…
道内唯一のPICUでは日々、小さな命と向き合い続けています。