“約7割が離職” 若年性認知症 48歳で診断された男性「働き続けたい」新しいキャリアに挑戦
働き盛りだった48歳の時に若年性認知症と診断された男性。
この病は経済面や精神的な問題を浮き彫りにしています。
「働き続けたい…」と新しい仕事を決めた男性の思いに迫ります。
生活が一変…48歳で若年性認知症
(松本健太郎さん)「家にニラあった?」
(松本さんの妻)「ない」
(松本健太郎さん)「水どこだっけ」
妻と二人で買い物をするのは、北海道赤平市に住む松本健太郎さん51歳です。
(松本健太郎さん)「シシャモとイカ…」
(松本さんの妻)「淡々とあちこち行って、私は追いかけるばかり。見失って、さがす感じ。ここ最近ずっといなくなっちゃうんです」
松本さんの病名は、若年性アルツハイマー型認知症。
スマートフォンが手放せません。
(松本健太郎さん)「これがないと、買い忘れとか何個も同じものを買ってしまう時があった。みそとか3~4個買った時あったもんね」
認知症と診断されたのはおよそ3年前。
地元の企業で営業職として働き盛りの時期でした。
(松本健太郎さん)「一番は稼ぎですね、生活費。もう1回働けるのかなって思いました。家族も焦るし、自分も焦るし」
生活は一変、専業主婦だった妻はパートの仕事を始めることになりました。
松本さんは管理職から離れ、ガソリンスタンドで汗を流します。
(松本健太郎さん)「2000円分…2000円分…売り上げ…売り上げ…」
注文を忘れないよう、繰り返し声に出します。
病に向き合いながら働く覚悟が見えました。
患者の約7割離職 化粧品会社に転職へ
10月、松本さんは新たなキャリアに踏み出す準備をしていました。
「お待ちしていました」
ソーシャルワーカーの男性と訪れたのは…
化粧品ブランド「SHIRO」の製品を製造・販売している砂川市の施設です。
展開するのは地元発祥の企業で、自然素材のスキンケア商品などが人気を集めています。
「11月からよろしくお願いします」
松本さんは通院している病院がある砂川市で暮らしながら、この会社で働くことを望みました。
(長谷川孝さん)「朝来たらこうなっているので、これを開けます」
サポートをするのは長谷川孝さん。
開店準備や本棚の整理など1つ1つ説明します。
(長谷川孝さん)「本人にとって一番働きやすい環境を作るために、どうしたらいいかと不安なこともあった」
就職先のめどが立ったものの、認知症の患者にとって働き続けることは大きな課題の1つです。
65歳未満で発症する若年性認知症の調査では、就労していた人のうちおよそ70%が退職、解雇された人は6%に上ることがわかっています。
離職する背景には、病気への理解が進んでいない現状があります。
松本さんは、ソーシャルワーカーの紹介で「シロ」に一般枠で採用されました。
支えてきたソーシャルワーカーは、患者が仕事を失う姿を何度も見てきたと言います。
(砂川市立病院精神保健福祉士 大辻誠司さん)「病院を受診した時には失職している人たちばかり、仕事を失っている人ばかり見てきた。何もしてあげられない人ばかりだったので、その中で松本さんは私たち支援者側からしても希望の人なんです」
人生で初めての香水を体験…
(松本健太郎さん)「あ!自分からするにおいじゃない…」
「緊張と不安…」新しいキャリアをスタート
出勤当日の朝。
(松本健太郎さん)「おはようございます。まだ緊張と不安…」
通勤は会社のシャトルバスを利用します。
運転免許を返納した松本さんは、妻の送迎に頼る生活から自立したいと考えたのです。
(長谷川孝さん)「カフェの皆さん集まっていただいてもいいですか。11月から事務局に来た松本さんです」
(松本健太郎さん)「若年性アルツハイマーっていう病気なんですけど、たまに変なことするかもしれないんですけど、大目に見てくれたらと思います」
病気のことは、あえて伝えることにしました。
たくさんの人と触れ合うことも、ここでの仕事の魅力。
訪れた客に、施設を紹介する見学ツアーです。
忘れてしまっても確認できるようにスマートフォンで記録します。
(松本健太郎さん)「この一部を任されるらしいので、動画で撮らないとどうしてもわからない」
(長谷川孝さん)「以上で終わります」
見学ツアーは、約1時間続きました。
(松本健太郎さん)「ギブアップ…」
周りに支えてもらいながら…「認知症でも働ける」
翌日、実際に松本さんがお客さんに説明することになりました。
台本を読む松本さん。
(松本健太郎さん)「秋に子どもたちと森に出かけ、木の種を拾い、種から木を育てています。こちらはシロ農園と言いまして約30種類の…」
(長谷川孝さん)「もうちょっとすらすら言ってみましょうか」
(松本健太郎さん)「すらすらしてなかった?(笑)」
(記者)「きのう録画していた動画は?」
(松本健太郎さん)「動画?何か撮ってました?」
(長谷川孝さん)「僕のツアーやっているところを、ずっと撮ってくださっていた」
スマートフォンを確認する松本さん。
(松本健太郎さん)「あった…」
長谷川さんがお客さんに説明する動画を、繰り返し再生していました。
そしてー
(長谷川孝さん)「彼は、入社まだ3日目なんですけど、練習中なんです。お付き合いいただいてもいいですか?」
(松本健太郎さん)「私の障害のことも説明させてください。若年性アルツハイマー型認知症と診断されています。その人間でも働けるということをテーマにしていますので、お付き合いください」
松本さんが、会社の取り組みについて説明します。
(松本健太郎さん)「毎年秋に子どもたちと森に出かけ、木の種を拾って種から木を育てています。やがて50年後に育てた木を使って、家具を作りたいという人が現れたら夢があります。もしかしたら4歳のころ、このワークショップに参加した人が、54歳になって自分が拾った種から育てた木を使って何かを作りたいと言う人が現れたらいいなと思っています。以上です」
(長谷川孝さん)「感動しました。ばっちりです!」
(長谷川孝さん)「実際に会うとすごくすてきな方で、仕事もまじめにやってくれる。仲間として仕事をしていけると思う」
(松本健太郎さん)「自分1人の力では到底無理。周りの助けを借りて一生懸命に働く。認知症患者でも戦力になるように。それを示したい」
(長谷川孝さん)「松本さん、来てくれてうれしいです」
(松本健太郎さん)「照れます」
病気を理由に諦めない…
(シロ 今井浩恵会長)「病気だからとかではなく、みんなが少しずつ触れ合う中で学んでいって、ともに支え合っていける環境をつくれた方が生きていく中で豊か。その豊かさを松本さんを通じて感じることができる気がした」
松本さんが働き続ける原動力です。