【密着】火柱の中を駆ける天狗 100年以上の伝統「天狗の火渡り」大役務めた若者の覚悟 積丹・美国町
100年以上にわたって海沿いのマチで受け継がれてきた、伝統の「天狗の火渡り」。
その圧倒的な迫力は見る者を魅了します。
2026年に初めて「天狗役」を務めることになった若者にカメラが密着。
ふるさとへの思いと覚悟を胸に炎に飛び込む姿を追いました。
漁師町で受け継がれてきた“伝統の祭り”
小さなマチがこの夜だけは人口の3倍の人で文字通りアツく燃え上がります。
北海道・積丹の美国町の「美国神社例大祭」。
そのフィナーレを飾る、祭り最大の山場がこの「天狗の火渡り」。
マチ中のけがれを背負った天狗が火柱の中を渡る伝統の祭り。
「天狗」は町民の憧れで、たったひとりの選ばれた者だけがなれるのです。
積丹の美国町といえば、日本海に面したウニのマチ。
美国の人口はおよそ970人。
漁業が盛んな小さなマチです。
漁師町として栄えた美国に、笛や太鼓の音が聞こえだすのが4月下旬。
7月に行われる祭りの準備がはやくも始まるのです。
幼いころからの憧れ「天狗さん」
このマチで生まれ育った32歳の野宮涼生さん。
この人こそ、2026年の猿田彦・通称「天狗さん」を務めます。
子どもの時からの念願が叶って初めての「天狗さん」です。
(野宮涼生さん)「早く首を振れば格好悪くなるのでゆっくりゆっくり、それが難しいですね」
2025年に鎮座300年を迎えた美国神社。
このマチの最大の祭りは毎年7月4日から3日間。
昼間は御霊をのせた神輿を天狗が先導し、町中のけがれを背負って1日中歩き回り、夜のとばりが降りたら神社に戻り、火でけがれを払う火渡りが行われるのです。
(美国神社 三上昇副祭典委員長)「あくまでも天狗が、猿田彦が主催で動いて歩いているから、やっぱり人間性とか誰でもなれるもんではない」
マチの長老もそう語る、選ばれし者が紡いできた天狗の歴史の重み。
野宮さんも、2025年まで10年間天狗を務めた熊本さんから、所作や歩き方を一つ一つ受け継ぎます。
(前任の天狗 熊本猛さん)「ついて自分で足場を整えてから。僕の現役の時より練習していると思う。意気込みのある時にやらせたかったので、天狗さんがいないと始まらないですもんね」
天狗に抱かれ笑顔の野宮さん。
2歳ごろの写真です。
母親も昨日のことのように話します。
(母・京子さん)「小さい時からお祭りが好きだったの。天狗の行列が来たら、真似じゃないけど踊って。天狗になるか野球選手になるか歌手になるか」
いつかは天狗にー
憧れを胸に毎年のように参加した祭りでしたが…
およそ10年前の祭りで、全身の38%をやけど。
(野宮涼生さん)「この辺で『いてー』ってなって、うわ燃えていると思って、それがあったからももひきを履いて長袖のシャツを着たり予防して負傷者を出すことはなくなった」
(記者)「それでもやるんですね、また今回」
(野宮涼生さん)「そうですね、憧れが強いですね、天狗さん」
「想像以上の過酷さ」念願の天狗を全う
歴代の天狗の先輩たちの手を借りて、野宮さんが天狗の姿にー
(前任の天狗 熊本猛さん)「行くよ、頑張るよ。いいよ男前、もうここから自分の世界だから」
夢にまで見た、美国の天狗。
「一本歯の下駄」で立つことも難しかった2026年の春。
夏を迎え、天狗らしく堂々と!
(観客)「かっこよかったです。久しぶりに一本歯の天狗さん見て、すごくよかったです」
(記者)「天狗さん見てどうでした?」
(観客)「かっこよかった」
(観客)「やっぱ楽しい。ワクワクする。明日の火渡りが楽しみ」
午後9時前。
いよいよ、その時がー
お母さんの心配もピークに…
(母・京子さん)「本当に皆さんのおかげです。母の夢も叶いました」
(観客)「感動しました」
(観客)「他のところであまりないものだから毎年楽しみにしています」
1年間のマチのけがれを全て火で浄化し、御霊は無事に神社に。
初めての、そして念願の天狗を全う!野宮涼生さん。
(野宮涼生さん)「3日間ありがとうございました」
(野宮涼生さん)「見ているのとやるのじゃ全然違うので、想像以上の過酷さでしたね。熊本さん…うちの師匠が優しい声をかけてくれて持ち直したところもあるし、みんなのおかげで1年目無事に終わることができてほっとしています」
幼いころに抱いた憧れが32歳で現実に。
夢を叶えて、いま思うことはー
(野宮涼生さん)「狭いマチでみんな家族みたいで、人口も減ってきていますけど、これを少しでも長く続けていけるように頑張っていきたいと思います」
「火渡り」が紡ぐ小さなマチの歴史と伝統。
大役を終えて焦げた天狗は、マチの平穏を祈りながらまた1年の眠りにつきます。
