進む日本酒離れ 老舗酒蔵5代目の挑戦 明治創業「男山」コロナ禍で需要減 新たなファン開拓へ 旭川市

北海道のコメを使ったクラフトジンやレモンサワーに、家族連れが楽しめる施設を展開するなど、旭川の老舗酒蔵が新たな取り組みを進めています。
日本酒にかける5代目の挑戦を取材しました。
「すし専用」の日本酒と共に… 飲食業界盛り上げるために
旭川の歓楽地・さんろく街。
そこに一軒の寿司店があります。
豊富なネタがそろう寿司には…やっぱり日本酒です。
カウンターには酒をたしなむ客の姿がありました。
(来店客)「うまいです」
(来店客)「おいしい」
酒の名前は「つまみつつ」。
ラベルには「すし専用」の文字がー
寿司をつまむ手をモチーフにしたデザインが描かれています。
飲食業界を盛り上げるために作られました。
(二幸本店 目黒聡さん)「北海道のすし商組合の青年部と男山さんのコラボ商品です。すしによく合うようにと、職人さんから統計をとってできたお酒になります」
ユニークな酒の仕掛け人 旭川の酒造メーカー「男山」5代目の挑戦
(山崎五良さん)「おはようございます」
「つまみつつ」を手掛けたのは、旭川の酒造メーカー「男山」の山崎五良さんです。
ユニークな酒づくりの仕掛け人で、名前の通り「男山」の5代目に当たります。
寒い時期に始まるのが酒の仕込み。
質と味を守り続けてきました。
「男山」は明治時代の1887年に創業した老舗の酒蔵です。
大雪山系の伏流水からできる酒は地元で支持され、およそ140年にわたり道北の中心都市・旭川の発展を支えてきました。
(山崎五良さん)「いちごチョコだけで1000円するから1500円とかにして。売れなかったら(販売を)やめるから」
子どもの声が響き渡るのは、2024年9月に完成した「OTOKOYAMA SAKE PARK」。
家族連れや観光客に足を運んでもらおうと山崎さんが新たに提案しました。
巨大な一升瓶の形をした滑り台は大人気です。
売店には様々な酒が並ぶ一方で、一升瓶の輪投げコーナーや自由に文字や絵を描ける黒板と、子どもが楽しめるスペースがあります。
(訪れた人)「休憩がてら子どもも喜んでいて良いかなと思います」
こうしたアイデアは山崎さんの発想から生まれました。
(山崎五良さん)「新しくしてから確実に若い人が増えました。味の評価というのが直接聞けるのですごくいいですね。小さいころから酒蔵で遊んでいることで、大人になったときに(酒蔵を)身近に感じてもらえれば」
酒造りの技を活用し道産米からアルコールを醸造したクラフトジンや、原料はお米とレモン果汁だけというレモンサワー!
併設されたカフェでは、日本酒を煮詰めてできる甘いシロップを使ったラテも提供しています。
ほかにも自慢の仕込み水を使ったジュースやかき氷など、お酒を飲まない人でも楽しめる酒蔵を目指しています。
こうした取り組みのきっかけになったのは、コロナ禍でした。
日本酒離れが進む中で、コロナの影響で需要が急減したのです。
(山崎五良さん)「コロナ禍で酒が悪という感じになって、生産量も前年の70%ダウン。30%しかつくらない年もあって、さすがに不安というか。このままでいいのかと」
新たな客層に「日本酒」を知ってほしい 月1回の新商品開発会議
どう生き残りを図るか…
「男山」を新たな客層に知ってもらう手段として考えたのが、新商品の開発でした。
月に1回開かれる商品会議です。
新たな精米技法でつくった酒の味や風味に変化がないか確認していました。
実用化できればより安い値段で酒をつくれるようになります。
(会議)「香りが良かったよね」
(山崎五良さん)「昔からそうやってきたからやってきたことが、果たしていま必要なことなのか。ただでさえお米が値上がりしている中で、コスト削減していくためにこういうことやりましょうと話し合いをする会議。なかなか冬の期間は杜氏が酒造りに忙しくて参加してくれないので」
(杜氏)「その情報いらないでしょ」
山崎さんの姿に父の與吉さんも頼もしく思っています。
(山崎與吉さん)「やっぱり我々が生きていくためにはどういう方向性をつくっていくのかが一番の問題ですね。旧来通りの日本酒をつくるだけでは生きていけない確率が高い。もう自由にやってもらってね、その中でどうしたらいいかと。我々には若い人たちの発想がでてこないし『好きな事やってみれ』というところですね」
大学生に思いは届くのか? 伝統を守りつつ新たなファン開拓へ
この日、訪れたのは札幌市内の大学です。
(山崎五良さん)「きょうは授業を一つ頂戴してまして、今の取り組みをお話しようと思っています」
山崎さんは、若い世代に少しでも日本酒に関心をもってもらえればと語ります。
(山崎五良さん)「僕らは普段日本酒を飲んでない人たちに飲んでもらおうと思って(商品を)出しているが、結局響くのはこの人たちなんですね。女性や若い人に日本酒を飲んでもらいたくても、結局ここでしか反応しなくて、どんなに新商品を出しても、ターゲットの人しか見てくれない。日本酒を極めても極めても、パイは増えるわけではなくここでの争いになっていて。日本酒を活用するということができるんじゃないかと思いました」
山崎さんの思いは届いたのでしょうかー
(大学生)「若い人にも関心を持たれるように、アイスとかレモンサワーとかを販売していると聞いて、印象がやっぱり変わりました」
(大学生)「まだ難しいのかな(味を)理解するには。印象がいい意味で変わったので日本酒にもう一回チャレンジしてみたいと思いました」
(山崎五良さん)「なかなか仕事をしていると20歳前後の人と接することがないので貴重な機会でした、彼らが何を感じているのかがダイレクトに分かるのですごく勉強になります」
山崎さんは酒造りの伝統を守りつつ、新たなファン開拓のための手は打ち続けたいと話します。
(山崎五良さん)「日本酒をやめることは絶対ないですし、日本酒あっての男山ですので、、日本酒をずっとつくり続けてより良いものを追求していきます。その中でやれることはやれるんじゃないかな」
まだ飲んだことのない人にも日本酒の魅力を伝えたい。
5代目の挑戦はこれからも続きます。
日本酒の国内出荷量は年々減少… 厳しい環境に置かれる「日本酒業界」の未来は
日本酒の消費量は減少傾向にあります。
ピークとなる1970年代に170万キロリットルあった日本酒の国内消費量は直近40万キロリットル弱まで減っています。
他のアルコール飲料との競合が主な原因とみられますが人口そのものが減少する中さらに酒米の値上がりも見込まれ日本酒業界は厳しい環境に置かれています。
一方で、日本酒は「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産になるなど世界中で評価が高いことも事実です。
あくまで日本酒づくりに軸足を置きつつ高い醸造技術を活用して新たな手を打ち続ける「男山」の挑戦から目が離せません。