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手術は年間200件 消化器外科の医師不足 断る選択肢は「ない」専門外の治療も担う地域医療の現状 北海道

がんなどの手術を担う消化器外科医は年々減り続け、20年後には半数以下になると言われています。

地域の人たちが安心して暮らすためには、身近な場所で医療を受けられる体制が欠かせません。

地域医療の現状を取材しました。

この日、行われていたのは虫垂を切除する腹腔鏡手術です。

(余市協会病院 蔵前太郎医師)「サクション(吸引)出してくれる?」

執刀するのは蔵前太郎医師。

がん手術などを担う消化器外科医で、6年前に北大病院から派遣されました。

(余市協会病院 蔵前太郎医師)「(手術は)年間200件くらいですかね。いろんな地域から来ます」

およそ1万7000人が暮らす後志の余市町。

蔵前医師が勤務する余市協会病院は、北後志の5町村で入院治療を行える唯一の基幹病院。

北は積丹半島の先端から南は赤井川村の山奥まで、広い範囲を支えています。

救急車の搬送は年間1000件以上。

(余市協会病院 蔵前太郎医師)「お腹痛くない?胆のうとったねこれ?」

遠いところでは搬送に1時間以上かかるといいます。

100人以上の入院患者を診ているのは、蔵前医師を含むわずか2人の消化器外科医。ギリギリの状態です。

(余市協会病院 蔵前太郎医師)「お腹どうです?頑張ってリハビリしましょう」

(余市協会病院 蔵前太郎医師)「抜糸しましょう」

専門外である足の手術もします。

(余市協会病院 蔵前太郎医師)「壊死性筋膜炎といって筋膜が腐っていく。半日で命を落とす可能性がある。整形外科の分野です」

すでに2つの診療科が撤退…地域の基幹病院で進む医師不足

余市協会病院はこれまでに2つの診療科がなくなりました。

2004年には産婦人科が、2009年には整形外科が撤退。

いずれも医師不足が原因です。

蔵前医師の担当は消化器外科にとどまらず、内科や呼吸器、整形など多岐にわたります。

(記者)「仮にこの病院がなくなった場合、患者は?」

(余市協会病院 蔵前太郎医師)「小樽や札幌に行くしかないが、交通手段が限られるので、結局どこにも行けないという可能性はある」

(記者)「患者を断るという選択肢は?」

(余市協会病院 蔵前太郎医師)「ないです。救急車は全部受ける、心肺停止は100%受けるようにしている。ここで受けないと先がないから」

地方の病院では総合診療医の役割も担う消化器外科。

最後の砦ともいえる存在ですが、年々減り続けています。

現在、全国におよそ1万5000人いる消化器外科医は、20年後には半数以下になると予測されています。

一方、がん患者はいまよりも増え、消化器外科医が大幅に不足すると込まれています。

研修医「最近の働き方に合わない」若手医師のリアルな声

長時間の手術や緊急の呼び出しは、若手医師が避けている原因のひとつです。

(麻酔科志望 梶本有悠佳研修医)「研修医終わって美容外科に行く人も多いですし、眼科とか耳鼻科とかマイナー外科に進む人も多い。消化器外科は忙しくて集中力も大事な仕事なので、最近の働き方には合わないのかなと思います」

土曜日の夜、北大病院から若手医師が出張医として派遣されていました。

(北大病院消化器外科Ⅱ 田路悠太医師)「こっちが救急外来で、手前に当直室があって、だいたい夜はここで寝ています」

出張医は日直、当直、日直の32時間勤務。

24時間・365日患者を受け入れています。

十分な睡眠を取れるのはわずかです。

(北大病院消化器外科Ⅱ 田路悠太医師)「(患者の対応で)全然食べられなくて夜10時とか日付こえることもなくはないですね」

命にかかわるような緊急の対応も迫られるため、週末には若手の消化器外科医が派遣されているのです。

(北大病院消化器外科Ⅱ 田路悠太医師)「常勤医の先生たちが土日しっかり休めるように僕たちが派遣されている。エリアは全道各地で、八雲・函館・釧路・北見とかいろいろなところをまわる」

北大病院の消化器外科Ⅱは、道内39の関連病院に医師を派遣して地域の医療を支えています。

しかし、医師不足が進めば手術が簡単に受けられなくなる可能性があると警鐘をならします。

(北大病院消化器外科Ⅱ 平野聡教授)「消化器外科医が本当に少なくなってきている。大変だから敬遠される状況。これが進むと大事な消化器外科医が各基幹病院にいないという状況が生まれるかもしれない。外科医が減れば大きな手術は札幌まで来て受ける時代がやがて来る可能性がある」

高齢化が進み、交通手段も限られている地域の現状。

がん治療を受けている男性です。消化器外科医がいなくなれば、医療の崩壊ひいてはマチの崩壊に繋がりかねません。

(患者)「良い先生が来てくれているので、安心して大船に乗ったつもりでいる」

(記者)「ずっと余市にいてほしい?」

(患者)「それはあるけれど先生はそうはならないでしょ」

(余市協会病院 蔵前太郎医師)「いまのところ異動する気はないけれど…(笑)」

(患者)「異動が嫌だと思っていても異動と言われると出ないといけないからね」

(患者)「なくなれば不安ですね。交通は大変です。車もいつまで乗れるかわからないし」

地域医療を守るために…「必要だからやる」関心示す医大生も

消化器外科医として27年間現場に立ち続けてきた蔵前医師。

その経験と思いを未来に繋ぎ、地域の医療を守り続けようとしています。

(札幌医科大学5年 大塚水葉さん)「地方というか札幌から離れたところだと病院の存在が大きくて、患者との距離が近いので、そこで働くのも楽しみです。長時間手術で外科は難しいと思う人が多いと思うし、私も先入観で思っていましたが、先入観だけで“なし”だと思うのは違うのかなと実習して思いました」

(余市協会病院 蔵前太郎医師)「患者を治そうと思って医者になっているので、原点に立ち返って、きついからやめるとか大変だからやらないとかではなくて、必要だからやると考えつつ、地域の崩壊にならないように食い止めることが大事。社会インフラとして病院は北海道は大事」

医師不足を解消し、どう地域医療を守っていくのか。

早急な対策が求められています。

医師数の推移ですが、2002年を「1」としたときに20年間でどのように変わったのか表しています。

実は医師自体の総数は1.31と増えています。

麻酔科や内科も増加していますが、消化器・一般外科は0.79と2割程度減少しています。

長時間手術や緊急の呼び出しで若手医師が避けていることが理由のひとつにあります。

北大病院の平野教授は、手術を交代制にして長時間の負担を避ける働き方改革をすでに導入していて、ほかにも遠隔ロボット手術の導入で、地域に医師を送らなくても質の高い医療技術が提供できる仕組みづくりを進めているとのことです。

11/29(土) 08:16

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