刑務所で加害者と面会「なぜ事故を起こしたか」息子を失った父親の思い 癒えない悲しみに苦しむ日々 札幌市

2024年、札幌市豊平区で赤信号を無視した車にはねられ、小学生が死亡した事故。
息子を失った父親が、運転手の男と刑務所で初めて面会しました。
事故と向き合い、罪を償ってほしいー
その家族の思いは届いたのでしょうか。
わずか9歳…交通事故で息子を失った男性
交通事故で息子を失った西田圭さんです。
この日、ある刑務所へ向かいました。
(西田圭さん)「自分が果たしてどれだけ冷静に落ち着いていられるのかという展開が読めないので、そういう意味ではドキドキしています」
息子の命を奪った男と初めて面会に臨みます。
3人兄弟の末っ子の倖さん。
人を笑わせることが大好きな人気者でしたが、わずか9歳という短い生涯を終えました。
(鷲見記者)「事故現場には部品が散乱していて、警察官が入念に調べています」
2024年5月、札幌市豊平区で、登校中に横断歩道を渡っていた倖さん。
そこに赤信号を無視したワゴン車が突っ込みました。
運転していた65歳の男は糖尿病を患っていました。
しかし、男はインスリンを注射した後、必要な食事をとらず、低血糖による意識障害に陥っていたのです。
(西田圭さん)「罪を犯したこと自体は許されることではないので、被告に対する心境は全く変わっていないんですね」
裁判で「謝り続けることしかできない」と繰り返す男。
出された判決は禁錮2年6か月でした。
しかし、西田さんは謝罪だけでは罪を償えないと訴えます。
(西田圭さん)「同じ事故が起きないようにどうしたらいいのかということを、私たち被害者だけではなく、加害者の方にもしっかりと向き合ってほしいという気持ちを強く感じている」
「心情伝達制度」被害者や遺族の思いを加害者に…
判決が出ても戻ることのない幸せな日々。
(西田圭さん)「毎日といっていいほど見ている。単純にかわいいなーって思いながら見ています。かわいいなーとか本当にひょうきんだったよなぁとかずっと見ていると悲しくなっちゃうので。これ以上写真が増えないのは悲しいですよね」
癒えない悲しみに苦しむ被害者の家族。
一方、刑務所に服役している男は自らの罪とどう向き合っているのかー
西田さんはある制度を使うことにしました。
(刑務所職員)「聴取した心情は、内容等を考慮して社会復帰支援に使用します」
「心情伝達制度」とは、刑務所の職員などを通じて、被害者や遺族の思いを加害者に伝えることができる制度です。
加害者からは書面を通じて返答を受け取ることができます。
裁判の後、男に心境の変化はあったのか。
しかし、期待を裏切る結果となりました。
(西田圭さん)「謝り続けることしかないと思っていますと言っていたらしいんですよね。だけど、それだけじゃないだろうというふうに思っている」
(倖さんの母親)「一生を倖に対して謝り続けてほしいっていうのはもちろんそうなんですけど。謝ること以外で、事故を起こしてしまった彼だからこそできることを探してほしいなというふうには思っています」
会社を退職…癒えない悲しみに苦しむ日々
仕事一筋の毎日を過ごし、東京で単身赴任をしていた西田さん。
事故から1年が経ち、大きな決断をしました。
16年勤めた会社を辞めることにしたのです。
(西田圭さん)「気持ち的にはホッとしています。やっと息子のことに時間をすべて注げる、やっとやりたいことができる」
愛する息子を失った喪失感から、心身ともに体調を崩すようになった西田さん。
(西田圭さん)「ずっと倖のことを考えていたいのに、仕事とかで考えられない時間があるのが苦痛だったので、うつ症状を発症した」
これから人生をかけて息子に向き合うことを決意しました。
あの日から1年。
(西田圭さん)「気を付けてね、行ってらっしゃい」
事故現場に西田さんの姿がありました。
「息子の死を無駄にしたくない」という強い思いが、生きる糧となっています。
(西田圭さん)「息子を亡くすことの次に苦痛なのが、同じような事件が起きること。自分のためにも家族のためにも、同じような事件が起きないように、これからも活動していかなきゃいけないというふうには考えています」
1年間、訴え続けた思い 塀の中にいる加害者と面会
この日、西田さんは運転手の男と面会するため刑務所に向かいます。
罪とどう向き合っているのか、本人の口から直接聞きたかったからです。
(西田圭さん)「よしいこっか、じゃあね倖ちゃん」
(西田圭さん)「面会にまいりました、西田です」
この1年間訴え続けた思いは、塀の中にいる男に届いていたのでしょうかー
(西田圭さん)「私が同じような悲劇を繰り返さないために伝えて回るために、自分自身がなぜあの日ああいう事件を起こしたのか質問したら以前と変わらず。乗る以上は正しい薬の飲み方をしないといけないし、薬というのは怖いもの。病気は、糖尿病は怖いんだというコメントが来たんですけど、そこは自分自身の判断の甘さとか倫理観のなさに向き合えないんだなときょう確信しました。許さないっていうよりは悲しいですけど、あきらめに近い。この加害者は変わらない」
病気のせいにする男の様子にやりきれない思いが募ります。
(西田圭さん)「無念ですよね。ハンドルを握ってはいけない人間が握ってしまったばっかりに、息子は命を奪われてしまったのがかわいそうで仕方がない。なんであの加害者とめぐり合わせてしまったんだろうと改めて感じますよね。かわいそうとしか言えない」
愛する息子を突然奪われ、変わらざるを得なかった家族の生活。
そして、罪を償いきれない加害者。
同じ悲劇が生まれない社会を作っていかなくてはなりません。