「ろうの子どもたちに夢を…」デフリンピックに挑む日本代表選手 聞こえなくても…世界の舞台へ

「デフリンピック」という大会をご存知でしょうか。
「デフ」は英語で「聞こえない」という意味です。
聴覚障害のある人たちのスポーツの国際大会で、2025年11月に東京で初めて開催されます。
北海道から世界の舞台に挑む二人の日本代表選手の思いを取材しました。
重度難聴の男性 世界の舞台でメダル獲得へ
大きく手を振り笑顔を見せてくれた一人の選手。
デフリンピックバスケ男子・日本代表の手塚清貴選手38歳です。
生まれつき聴覚障がいがあり、ほぼ音が聞こえない重度の難聴です。
(手塚清貴選手)「うまく動けるかどうか。ここのチームはレベルが高いチームなんです。常に力を入れてやっている。そうしないと置いていかれてしまう。だから一生懸命やらないと」
長野県出身の手塚選手は、仕事をきっかけに北海道に移住し、普段は江別のアマチュアチームで健常者とプレーしています。
(輪島玲音キャプテン)「(手塚選手は)泥臭いプレーを40分間プレーし続ける選手」
(記者)「手話はできるんですか?」
(輪島玲音キャプテン)「全くできない。ありがとうとごめんねくらいならできますけど」
チームメイトの支えを受けて目指すのは、4度目のデフリンピックとなる世界の舞台で、一度もつかめていないメダル獲得です。
デフリンピックは「ろう者のオリンピック」11月に日本で初開催
デフリンピックは、聞こえない選手が出場する「ろう者のオリンピック」。
4年に一度開催され、その歴史はパラリンピックよりも古く、2025年で100周年。
11月には日本で初めて開催され、およそ80の国と地域から6000人程が参加する予定です。
大会では視覚的な工夫がなされ、選手にスタートを知らせるにはランプが使われたり、審判が反則などを知らせる時には旗や片手を上げます。
一方、選手全員が平等に聞こえない状況でプレーする公平さを保つため、補聴器をつけることは禁止されます。
世界の頂点を目指している手塚選手は…
音に頼ることができないため欠かせないのが、ハンドサインです。
フォーメーションや戦術の指示は目で見て理解します。
(手塚清貴選手)「しかしどこかで一歩遅れる時があります。その分全力で一生懸命やらなければなりません」
どんな環境でも泥臭く、全力で挑みつづけるのがモットーです。
娘とは手話で会話 家族の応援を胸に「子どもたちに夢を」
手塚選手には小学1年生の娘がいます。
(記者)「ママたちとは手話で話すの?」
(満月ちゃん)「うん、手話」
長女の満月ちゃんは音が聞こえます。
(満月ちゃん)「(お父さんは)おもしろい人」
(手話通訳)「楽しいよね、楽しい。いつも二人を笑わせてくれる」
妻の満里さんはデフリンピックバドミントンの元金メダリスト。
二人をつないだのがデフリンピックでした。
(手話通訳)「まだかわいい17歳の高校生でした。お世話をした記憶があります」
(手話通訳)「なにおかしいの。娘は知らないんですけどね」
満里さんはよき理解者。
競技以外では穏やかに過ごせるといいます。
(満月ちゃん)「頑張って」
家族やチームメイトの応援を胸に手塚選手が伝えたいことはー
(手塚清貴選手)「一日一日を大事にして、当日本番ではメダルを意識して目指します。ろうの子どもたちに夢を与えたい。がんばる、デフリンピック」
「男勝りなプレースタイル」日本代表・木村亜美選手
自宅で愛犬と遊ぶ、もう一人のデフリンピック日本代表選手。
彼女もまた、生まれつき聴覚に障がいがあります。
小樽市出身の木村亜美選手27歳です。
(木村亜美選手)「私は女子ですけど結構男勝りなプレースタイル。パワー型で自分から積極的に攻めて点数を取っていくスタイルなので、そこが強みなのかな」
(木村亜美選手)「これをこのようにして」
(記者)「人口内耳をとると聞こえなくなる?」
(木村亜美選手)「全く聞こえないです」
木村選手は、音を電気信号に変え、直接、脳の神経を刺激する装置「人工内耳」を装着しています。
普段は聞こえていますが、試合では外すことがルールです。
4歳のころ始めた卓球「金メダルは絶対に譲れない」
木村選手が卓球を始めたのは4歳のころ。
お姉さんの影響でした。
デフリンピックを知るまでは補聴器などを装着し、健常者とプレーしていました。
(木村亜美選手)「デフというカテゴリーがあるのを知って、チャレンジしてみたいと思った。自分がどこまで通用するか」
デフ卓球に転向後は次々にメダルを獲得し、2023年の世界大会で女子団体とダブルスで2つの金メダルを獲得。
2025年のデフリンピックで金メダルが期待されています。
音のない世界では、相手がかけた回転の種類を知らせるわずかな音の変化が聞こえません。
そのために必要なのは…
(木村亜美選手)「耳で情報が得られない分、目でしっかり情報を得るというのは大事にしています」
さらに、試合中のコーチとのやり取りでも…
(本田翔悟コーチ)「試合の時のセット間のアドバイスは1分間しかなくて。健常の子にも1分間で説明するのは難しい。それを(人工内耳を)外して聞こえない状態で伝えるのは書くしかないと思って」
コーチが作ったのは、いい点と悪い点を瞬時に理解できる表。
ここまで徹底するのは金メダルを手にするためです。
(木村亜美選手)「いちアスリートとして金メダルをとる目標は絶対に譲れない。もう一つは共生社会に向けてデフリンピックがきっかけでバリアフリーが推進していく、聴覚障害をもつアスリートとして社会に貢献したい」
デフリンピックまでおよそ4か月。
誰もが共に支え合い認め合い、自分らしく輝ける舞台を目指し闘い続けます。