ニュース

NEWS

“人とヒグマの接近”に警鐘「一触即発」事故の懸念は以前から…対策の最前線に密着 共生の道を探る知床

知床が世界自然遺産に登録されてから20年となります。

希少な野生動物が生息し雄大な自然を誇る知床ですが、8月14日、登山客がヒグマに襲われ死亡する事故が起きました。

そのおよそ1か月前、STVは知床でヒグマ対策の最前線を取材。

“人とヒグマの接近”に警鐘が鳴らされていました。

手つかずの自然「知床」世界遺産20年

洋上から臨む迫力満点の「カムイワッカの滝」。

太古の姿をそのまま残す「知床五湖」。

(ガイド)「いい場面ですねえ」

手つかずの自然の中で多くの野生動物が息づいています。

(観光客)「途中シカとかも見ましたし、自然が残っているのは素晴らしいなって感じですね」

コロナ禍や観光船事故の影響で一時、客足が鈍った知床に、にぎわいが戻りつつあります。

近海で獲れた新鮮な海の幸に子どもたちは大満足。

(観光客)「新鮮ですし、知床でしか食べられない味なので最高ですね」

(道東観光開発 東海林竜哉さん)「お客様は通常通り戻ってこられていて、ことしはたくさんの方に乗船いただいていますね。世界遺産というのはすごく魅力的なものだなと僕は思いますね」

世界自然遺産に登録されてから20年。

知床の今を見つめます。

目撃件数は過去最多 “人とヒグマの接近”に警鐘

20年前の7月17日、知床はユネスコの世界自然遺産に登録されました。

海と陸の生態系のつながりと希少な動植物が生息する豊かな自然が評価されたからです。

しかし、長年抱える課題がいま大きく浮上しています。

無人カメラがとらえた1頭のヒグマ。

斜里町で撮影されたこのオスのクマは、夜間に畑に侵入し小麦をむさぼっていました。

人とクマとの距離がますます接近しているのです。

実は、斜里町でのクマの目撃件数は2023年に2000件を超え、過去最多を記録しました。

エサ不足が背景にあるとの見方もありますが、はっきりとした理由は分かっていません。

知床財団の村田良介理事長は、人身事故につながる恐れがあると指摘していました。

(知床財団 村田良介理事長)「クマは一触即発、人身事故につながりますので、これだけ数が増えたり出没が多かったりすると、公園の中だけでなくウトロ地区とか斜里市街地とか、生活に直接かかわるようになってきていて、クマの問題はかつてからあったんだけど新たな課題」

クマ対策の最前線…パトロールに同行

知床財団ではヒグマを含む野生動物の保護や管理を担っています。

7月上旬、パトロールに同行させてもらいました。

前日にクマの目撃情報があったため、改めて痕跡がないか調べに行きます。

(職員)「(クマが)中にいるかもしれないので、一応ドローンで見てから入ろうかって」

クマが目撃されたのは「フレペの滝」に向かう遊歩道です。

普段は観光客が自由に立ち入ることができますが、クマ出没のため一時閉鎖されました。

(職員)「この辺がクマの足跡。ほとんど消えている。大人じゃないけど子どもでもない大きさですね。きのう人と会っているからびっくりして来なくなってくれたらいいんだけど」

今回のパトロールでは新たな痕跡は見つからず。

様子を見ながら今後も警戒を続けていくことになりました。

登山道近くにクマ…花火を放つも「逃げない」

すると、事務所がにわかにあわただしくなりました。

(職員)「一般の方が入れない本当に登山者しか行かない場所の近くの斜面で(クマが)滞留している」

(カメラマン)「クマがいるってこと?」

(職員)「今まさにいて、いろいろと試みているが動かないので応援がほしいということ」

車に乗って現場に急行します。

こうした出動は日常茶飯事です。

(職員)「あれか…いるね。どうするかな…」

クマがいたのは、観光客に人気の「カムイワッカ湯の滝」近くにある斜面でした。

フェンスの向こう側とはいえ登山道も近く、緊張が走ります。

職員が花火の音で追い払おうとしますがー

(カメラマン)「ちょっと上にあがっただけだ」

その場から立ち去ろうとはしません。

その後、何度か花火を放つと、やっと山に帰っていきました。

(職員)「おそらく亜成獣くらいの若いクマなんだと思うんですけど、ちょっと追い払いにすごく鈍感というか、逃げないタイプのクマでしたね」

「クマは人にだいぶ慣れている」登山客の男性が死亡

クマ対策チームを率いる松林良太さんです。

人が暮らす場所にもクマは出没するといいます。

(松林良太さん)「これは主に学校を守るための電気柵」

人の生活空間にクマが侵入することを防ぐ電気柵です。

世界遺産のエリアと隣接するウトロ地区をぐるりと囲むように設置されています。

海岸沿いに設置されたカメラには、電気柵に触れ驚いて逃げるクマの姿が映っていました。

(松林良太さん)「たまたま去年もここから入ろうとしたクマがいて、ちょうどはね返す動画が撮れて、確実に効果があることがわかっています」

クマが身を隠せる藪の草刈りをすることも重要な仕事です。

こうした地道な努力を重ねることで、人とクマの偶発的な接触を防ごうとしているのです。

(松林良太さん)「(知床の)クマはおそらく人にだいぶ慣れているんじゃないかという印象はあります。人の方も慣れて、互いに慣れすぎて、互いに近すぎると万が一が起こりえる状況は、毎日どこかで発生しているというのがいまの知床の状況です」

斜里町の山内町長は人とクマとの距離をどう保つかが課題と話します。

(山内浩彰町長)「ありのままの自然の部分をどういう風に後世に残していくか、共生しているところを継続させていくか、うまく折り合いをつけていくことがベストなのかなと」

“人とヒグマの接近”に警鐘が鳴らされていたなか、羅臼岳で8月14日、登山客の26歳男性がクマに襲われ死亡する事故が発生しました。

世界自然遺産に登録されて以降、初めて起きた悲惨な事故。

知床財団は斜里町などと協力し、今後の安全対策や利用のあり方について積極的に提言していくとしています。

08/23(土) 08:11

ニュース