【要支援者の避難】「災害弱者」をどう守るか
きょうは災害時の避難に支援が必要な、いわゆる「災害弱者」をどう守るかを考えます。
北海道内でも命を守るための計画作りが進んでいますが、その取り組みと課題を取材しました。
(青柳記者)「別海町尾岱沼地区に来ています。海と住宅の距離が近く、高低差もほとんどありません」
オホーツク海に面する別海町尾岱沼地区。
北海道付近で巨大地震がおきると、尾岱沼には最大で2.9メートルの津波が押し寄せると予想されています。
尾岱沼に住む瀧尾菊江さん87歳です。
瀧尾さんは6年前にご主人が亡くなってから1人暮らしです。
足が不自由で杖が手放せません。
(瀧尾菊江さん)「座ってばっかりいたら震えて、歩くとき。父さんの付き添いをしているときから車ばっかり乗っていたからね」
別海町では先月、大地震を想定した避難訓練が行われました。
(別海町介護支援課 大河原明さん)「大丈夫ですか、瀧尾さん。公民館まで一緒に付き添います」
瀧尾さんも自宅近くにある公民館に避難しますが、100メートル近い距離があります。
駆けつけてくれたのは役場職員。
避難を手助けしてくれます。
(別海町介護支援課 大河原明さん)「大変ですね。ここも段差があるので気を付けてください」
公民館までは足場の悪い下り坂や砂利道が続きますが、手助けのおかげもあり10分かからず避難できました。
(別海町介護支援課 大河原明さん)「そしたら中で受付をお願いします。普段から荷物をまとめていたらすぐに駆けつけられるけど、実際地震のときに事前に準備をしていなかったら荷物をまとめなきゃってなるし、服を着なきゃってなるから、なかなかここまで早く避難するのは難しいけれども」
(瀧尾菊江さん)「大変助かりました」
別海町がイメージする個別避難計画です。
支援が必要と申し出た人に支援者をつけ、町が指定する避難所まで手助けします。
町ではおよそ230人がこの支援を希望しています。
(別海町介護支援課 大河原明さん)「別海町では手上げ方式で行っております。支援を必要とされる方に申請していただいて、こちらの方で民生委員・町内会にご協力いただいて支援者の方を探しております」
避難訓練に参加した瀧尾さん。
実はまだ支援の希望を町に届け出ていません。
仕組みをまだよく知らなかったからです。
(瀧尾菊江さん)「(支援員が)いたからいいけどね。やっぱり地震になったら誰も介護もなにもみんな自分が大変だから」
(青柳記者)「登録してみたいと思いますか?」
(瀧尾菊江さん)「はい」
(別海町介護支援課 大河原明さん)「杖をついて歩いている方だったので、足も結構日によっては痛みが走ったりするということだったので、災害が発生した際に1人だけで避難できるかがちょっと不安かなと。必要ということであれば、災害時の要支援者の申請をしていただければと思いました」
別海町が作った個別避難計画は、おととしから各市町村に作成の努力義務が課されています。
道内ではこれまでに、全体の7割を超える128の自治体が作成を進めています。
支援が必要な人の命を守るこうした計画が広まる一方で、その実効性に不安を抱く人もいます。
札幌市手稲区に住む野瀬政裕さん。
「前田ゆたか町内会」で個別避難計画作りを担当しています。
この町内会では、近くを流れる新川が氾濫すると住宅が浸水する恐れがあります。
(野瀬政裕さん)「これが市で要支援者名簿、情報提供された方々の名前が載っている。今年のものですね。これマル秘。町内会の地図に赤く47人」
札幌市では、個別避難計画作りは多くが町内会に委ねられています。
およそ600世帯が暮らす「前田ゆたか町内会」には支援が必要な人が47人います。
計画を作る上で欠かせないのが本人との面会。
要望や普段の生活を聞き取り、計画作りの参考にします。
この日訪れたのは足が不自由な92歳の女性宅。
長男夫婦との3人暮らしです。
(野瀬政裕さん)「災害に対する備えとか心構えとかありますか?5年前に胆振東部地震でブラックアウトになったでしょ?真っ暗に。あの時どうしました?」
(長男)「ここ幸いに夕方に電気がついたので、生活にはそれほど支障はなかった」
女性と同居する長男は、災害時の手助けを考えると遠出はできないと言います。
(長男)「やっぱり1人で動けないですから、極力遠くにはいかないようにしているんですよね、1人のときには。僕らだけではどうしても動けないこともあるから、いろんな方の手助けというのを組んでもらうと非常にありがたいかなと思います」
一方で、計画作りには厳しい現実もあります。
札幌市から各町内会には、支援が必要な人1人につき2人の支援者をあてるよう求められています。
(野瀬政裕さん)「(要支援者が)47人いたら94人でしょ。全然できないので緊急を要する人・やや厳しい人・そうでない人という風に段階をつけて(やる必要がある)」
現状では主に町内会の役員が支援する人となりますが、役員はおよそ30人。
人手不足は否めません。
さらに高齢化という問題もあります。
(野瀬政裕さん)「老人の比率が多い町内会になってます。30パーセントいっているんじゃないかな、65歳以上。どこもそうなんですけど、役員のなり手がなかなかいなくて、役員もそれなりに年とってきてね」
専門家は、元気な高齢者が命の守り手にならないと、この避難計画は成り立たないと指摘します。
(跡見学園女子大学 鍵屋一教授)「まず74歳以下の人では要介護・要支援という方は4パーセント、96パーセントの人は自立生活を送られていますね。そういう人達はある程度移動もできますし、車の運転もできるわけです。多くの場合、高齢者が高齢者を支えている。特に74歳以下の方々についてはもう支えられる方でなくて支える方だと。地域社会の重要な守り手だとお考えになっていただいて、積極的に協力していただきたいなと思います」
災害で支援を必要とする人を守る取り組み。
各地でその計画作りが進められていますが、高齢化の中でその問題点も浮かび上がってきています。
(2023年11月9日放送)
北海道内でも命を守るための計画作りが進んでいますが、その取り組みと課題を取材しました。
(青柳記者)「別海町尾岱沼地区に来ています。海と住宅の距離が近く、高低差もほとんどありません」
オホーツク海に面する別海町尾岱沼地区。
北海道付近で巨大地震がおきると、尾岱沼には最大で2.9メートルの津波が押し寄せると予想されています。
尾岱沼に住む瀧尾菊江さん87歳です。
瀧尾さんは6年前にご主人が亡くなってから1人暮らしです。
足が不自由で杖が手放せません。
(瀧尾菊江さん)「座ってばっかりいたら震えて、歩くとき。父さんの付き添いをしているときから車ばっかり乗っていたからね」
別海町では先月、大地震を想定した避難訓練が行われました。
(別海町介護支援課 大河原明さん)「大丈夫ですか、瀧尾さん。公民館まで一緒に付き添います」
瀧尾さんも自宅近くにある公民館に避難しますが、100メートル近い距離があります。
駆けつけてくれたのは役場職員。
避難を手助けしてくれます。
(別海町介護支援課 大河原明さん)「大変ですね。ここも段差があるので気を付けてください」
公民館までは足場の悪い下り坂や砂利道が続きますが、手助けのおかげもあり10分かからず避難できました。
(別海町介護支援課 大河原明さん)「そしたら中で受付をお願いします。普段から荷物をまとめていたらすぐに駆けつけられるけど、実際地震のときに事前に準備をしていなかったら荷物をまとめなきゃってなるし、服を着なきゃってなるから、なかなかここまで早く避難するのは難しいけれども」
(瀧尾菊江さん)「大変助かりました」
別海町がイメージする個別避難計画です。
支援が必要と申し出た人に支援者をつけ、町が指定する避難所まで手助けします。
町ではおよそ230人がこの支援を希望しています。
(別海町介護支援課 大河原明さん)「別海町では手上げ方式で行っております。支援を必要とされる方に申請していただいて、こちらの方で民生委員・町内会にご協力いただいて支援者の方を探しております」
避難訓練に参加した瀧尾さん。
実はまだ支援の希望を町に届け出ていません。
仕組みをまだよく知らなかったからです。
(瀧尾菊江さん)「(支援員が)いたからいいけどね。やっぱり地震になったら誰も介護もなにもみんな自分が大変だから」
(青柳記者)「登録してみたいと思いますか?」
(瀧尾菊江さん)「はい」
(別海町介護支援課 大河原明さん)「杖をついて歩いている方だったので、足も結構日によっては痛みが走ったりするということだったので、災害が発生した際に1人だけで避難できるかがちょっと不安かなと。必要ということであれば、災害時の要支援者の申請をしていただければと思いました」
別海町が作った個別避難計画は、おととしから各市町村に作成の努力義務が課されています。
道内ではこれまでに、全体の7割を超える128の自治体が作成を進めています。
支援が必要な人の命を守るこうした計画が広まる一方で、その実効性に不安を抱く人もいます。
札幌市手稲区に住む野瀬政裕さん。
「前田ゆたか町内会」で個別避難計画作りを担当しています。
この町内会では、近くを流れる新川が氾濫すると住宅が浸水する恐れがあります。
(野瀬政裕さん)「これが市で要支援者名簿、情報提供された方々の名前が載っている。今年のものですね。これマル秘。町内会の地図に赤く47人」
札幌市では、個別避難計画作りは多くが町内会に委ねられています。
およそ600世帯が暮らす「前田ゆたか町内会」には支援が必要な人が47人います。
計画を作る上で欠かせないのが本人との面会。
要望や普段の生活を聞き取り、計画作りの参考にします。
この日訪れたのは足が不自由な92歳の女性宅。
長男夫婦との3人暮らしです。
(野瀬政裕さん)「災害に対する備えとか心構えとかありますか?5年前に胆振東部地震でブラックアウトになったでしょ?真っ暗に。あの時どうしました?」
(長男)「ここ幸いに夕方に電気がついたので、生活にはそれほど支障はなかった」
女性と同居する長男は、災害時の手助けを考えると遠出はできないと言います。
(長男)「やっぱり1人で動けないですから、極力遠くにはいかないようにしているんですよね、1人のときには。僕らだけではどうしても動けないこともあるから、いろんな方の手助けというのを組んでもらうと非常にありがたいかなと思います」
一方で、計画作りには厳しい現実もあります。
札幌市から各町内会には、支援が必要な人1人につき2人の支援者をあてるよう求められています。
(野瀬政裕さん)「(要支援者が)47人いたら94人でしょ。全然できないので緊急を要する人・やや厳しい人・そうでない人という風に段階をつけて(やる必要がある)」
現状では主に町内会の役員が支援する人となりますが、役員はおよそ30人。
人手不足は否めません。
さらに高齢化という問題もあります。
(野瀬政裕さん)「老人の比率が多い町内会になってます。30パーセントいっているんじゃないかな、65歳以上。どこもそうなんですけど、役員のなり手がなかなかいなくて、役員もそれなりに年とってきてね」
専門家は、元気な高齢者が命の守り手にならないと、この避難計画は成り立たないと指摘します。
(跡見学園女子大学 鍵屋一教授)「まず74歳以下の人では要介護・要支援という方は4パーセント、96パーセントの人は自立生活を送られていますね。そういう人達はある程度移動もできますし、車の運転もできるわけです。多くの場合、高齢者が高齢者を支えている。特に74歳以下の方々についてはもう支えられる方でなくて支える方だと。地域社会の重要な守り手だとお考えになっていただいて、積極的に協力していただきたいなと思います」
災害で支援を必要とする人を守る取り組み。
各地でその計画作りが進められていますが、高齢化の中でその問題点も浮かび上がってきています。
(2023年11月9日放送)
「STVニュース」
1/5(金)12:12更新