Dr.トーコのラジオ診療室

5月10日(日)「バスキュラーアクセスを知っていますか?」

2020年5月10日(日)

5月10日(日)「バスキュラーアクセスを知っていますか?」

  • 陶子先生、飯田先生、山本さん
山:最近は「おうち時間を楽しもう!」ということで皆さん工夫されていますが、陶子先生はどのようにお過ごしですか?
陶:読書が好きで、特に作家の阿刀田高先生の作品のファンです。「ギリシャ神話を知っていますか?」という著書があり、今回のテーマのタイトルはちょっと真似をしてみました。阿刀田高さんのこの小説を中学校の時に読んで、奥深いギリシャ神話にとても親しみをおぼえながら理解することができました。
山:それでは、今日のテーマは何でしょうか?
陶:「バスキュラーアクセスを知っていますか?」です。バスキュラーアクセス、というちょっと取っ付きにくい言葉について、作家の阿刀田高先生ではなく、バスキュラーアクセスの分野で高名な飯田潤一先生を苫小牧日翔病院からお招きしてお話いただきます。みなさんが親しみをもって理解してくれればいいな、と思います。
山:苫小牧日翔病院透析センターの飯田潤一先生、よろしくお願いします。
飯:よろしくお願いします。
陶:私から飯田先生のご紹介を致します。飯田先生は外科の専門医でいらっしゃいます。現在は苫小牧日翔病院透析センターで、バスキュラーアクセスセンター・副センター長、透析バスキュラーインターベンション治療研究会の幹事を勤められています。いわば、バスキュラーアクセスのプロ中のプロなのです。飯田先生と私が何故知り合ったかといいますと、PTA(経皮的血管形成術)という風船で血管を広げる手技があり、それを私が飯田先生に習いに行ったのが始まりです。その後、北海道透析療法学会で演題を拝見して、飯田先生は人工血管の経験も非常に豊富と知りました。難しい人工血管の手術を、ぜひ先生に教えてもらいたいと思い突然メールしたところ、快く指導いただけることになりました。現在は、私が苫小牧へ見学に行くこともありますが、2週間に1回、実際にH・N・メディックに出張いただき一緒に手術するということを続けて下さっています。
山:陶子先生の師匠、という感じですね。
陶:そうなのです。本題ですが、バスキュラーアクセスとは何か。バスキュラーとアクセス、という風に区切りますが、バスキュラーは血管という意味で、ラテン語で「小さな入れ物」といった語源があるようです。この場合、血管という管状の入れ物の中に入っているのは血液です。次にアクセスですが、例えば「H・N・メディックに行くには国道12号線から行くとアクセスがいいよ」というような、目的地に到達する道みたいなイメージの言葉です。
山:合わせると、血管の入れ物の中に入っている血液へのアクセス、ということですね。それが透析とどのような関係があるのですか?
陶:透析が行っているのは、「大量の血液浄化」だからです。慢性腎不全では週に3回ほど、この大量の血液浄化、血液透析が必要なわけです。
山:その血液へのアクセスということですか!
陶:バスキュラーアクセスというのは「透析を出来るようにするための血液に到達する道」みたいなイメージです。そのためにシャントというものがありますが、それについて飯田先生にお話ししていただきます。
飯:慢性腎不全では週に3回ほど、大量の血液浄化が必要です。シャントがあると血液透析には便利です。毎回2本の太い針をシャント血管に刺します。細い針でもシャント用の針は外径が約1.5mmもあります。採血や点滴用の針と比較してもかなり太いのです。H・N・メディックでの得意分野は病院食ばかりではなくて、シャントの修復もそのひとつです。
山:何度も刺されるため、透析患者さんは大変ですね。
飯:刺される痛みもありますし、血管にも無理がかかります。病歴の長い患者さんでは、採血のために表にある血管が見えなくなっています。
陶:採血の時に、時々血管が潰れてしまっている患者さんもいらっしゃいます。腎臓の悪い患者さんは、どこで採血をしてほしいですか?
飯:手の甲とか足の血管とか、シャントの血管として使わないところを使っていただけると助かります。
陶:シャントを作るのも、治すのも我々の仕事であるわけです。
飯:内シャントには、自分の血管で作った自己血管内シャントと人工血管内シャントがあります。私たちは人工血管内シャントを「グラフト」と言っています。以前、人工血管は子牛の頚動脈の加工品でしたが、現在ではポリウレタンやe-PTFEで出来ているものが多数製品化されて、バイオチューブによるオーダーメイド製品も開発中となっています。
陶:この開発にも飯田先生は関わっていて、素材のことも細かく教えて下さいます。
山:人工血管、グラフトは一生使えるものなのですか?
飯:やはり性能としてはご自分の血管にはかないませんが、10年以上使える方もいれば、4ヶ月ほどで使用出来なくなる方もいらっしゃいます。自己血管、人工血管、どんなシャントでも長持ちしてほしいと思いながら手術をしています。
山:シャントを長持ちさせる秘訣はあるのですか?
飯:これがなかなか難しくて、動脈と静脈のつなぎ目を大きくすれば流れがよくなり、詰まりづらいシャントやグラフトにはなりますが、それでは心臓への負担が大きくなります。長持ちさせるのは、先ほどお話が出たPTA(経皮的血管形成術)が必要になります。最近の報告では、シャントであってもグラフトであっても、生存率には差が無いと出てきています。
山:最初から人工血管が良いという訳ではないのですね。
飯:現在、透析患者さんは40年以上の寿命があると言われています。40年もつ様な透析が出来ていかなければなりません。
陶:40年もたせるために、最初に内シャントを作り、その後バルーン拡張で修復、次にはグラフトを使用、またバルーン拡張で修復して、その後はどうされますか?
飯:動脈の表在化、動脈を直接刺すための手術です。表面の血管が全部だめになったら、長期留置カテーテルを使っている方もいらっしゃいます。
陶:その人その人によってやるべきことが違うため、誰にでも正解、ということはありません。PTA、バルーン拡張というのは狭くなった血管のなかに風船をいれてふくらませる手技のことで、これが冒頭でふれた私が飯田先生に教えてもらった技術なのです。
山:患者さんが長い間、血液透析ができるようにシャントを直していく技術を伝授してもらったのですね。
飯:血管は自転車のように買い換えができませんから、使えるシャントは長く使うことが大事です。シャントやグラフトの狭くなった場所をバルーン拡張するPTA(経皮的血管形成術)は長生きのための大切な方法です。これはH・N・メディックの近藤医師の得意手技のひとつでもあります。
陶:透析医療には、こうした技術の部分がとても大事だという側面もあるのです。独りで黙々と勉強することも大切ですが、高い技術は人から人に受け継がれて行くべきであるということで、飯田先生の技術提供もいただいています。
山:先生同士が手を取り合ってくれることで、技術が受け継がれて、広がって、よりたくさんの方が救われたりするのですね。今日は、苫小牧日翔病院の透析センター、飯田潤一先生にお話を伺いました。飯田先生、来週もよろしくお願いします。
飯:よろしくお願いします。
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