LIVE HOUSE タムラジオ

第69回“DoYou名言集”

2021年2月19日(金)

『俺はプレイする時、俺以外は全部敵だ、と思う』 by 今田勝

今日はジャズピアニスト、今田勝さんの言葉です。
なかなか不穏な匂いがする言葉です。
僕も人前で演奏するバンドマンとしてちょっとわかるようなところがある気がするんです。

この言葉は浅川マキさんという歌手の「ロング・グッドバイ」という本の中に出てきます。
1972年ごろのお話のようですけど、その当時、
浅川さんのライブのバックバンドをやっていたのが
今田さん自身がリーダーの今田勝トリオ。
そして浅川さんの相棒的ギタリスト萩原信義さんだったようですけど、
今田さんはジャズの人、片や萩原さんはロックやブルースの人。
だもんで、なかなか交わらないんですよ。

ある日この2人が熱い音楽談義を始めます。
まず萩原さんは「ロックというのは小さな渦が段々と大きくなって
最後にはみんなを巻き込んでいくもんだ。で、今田さんたちのジャズはなんなんだ?」
というような事を聞くんです。

そこで今田さんが答えるんです。
「俺はプレイする時、俺以外は全部敵だ、と思う」
ここで今田さんが言っているのは自分以外全て敵だから
俺の音楽でそいつらを攻撃してやろうとかやり込めてやろうとか
そういう事じゃないんですよね、きっと。

この言葉はまず自分自身、そして目の前にいる人に対して
安易な共感や共有というものを許さない姿勢という事なんじゃないのかなと思うんです。
自分なりの礼儀というんですかね。

で、そのライブの場で音楽を聞く人との関係を必ずゼロの状態から作る
まっさらなところから作る、自分の音楽の力だけで全力でその瞬間にその関係性を作る。
そうやって作ったものが本当の興奮や感動になるんだという事を知っている、
そういう人の言葉なんじゃないのかなと思うんです。

だから自分が鳴らす音楽で目の前にいる人を感動させる、興奮を共有するという事は、
口には出していなくても、目指しているんじゃないのかな。

だからロックが好きな萩原さんと目指しているものは
実は一緒なんじゃないのかなと思うんです。

ライブが終わればその中で作られた関係はリセットされるんですよね。
で、また次のライブは「俺以外は全部敵だ」
というところに自分を置いてゼロから始めるんだろうなと。
ライブの一回制だからこその興奮感動という事を
すごく信じている人なんじゃないのかなと思うんです。

僕も人のライブを見ていたらステージに立って演奏している人には
やっぱり「これしかねぇんだこのやろう!」と口にも態度にも出さなくていいんですけど、
心のどこかで思っていて欲しいなというのはあるんですよ。
そう思いながらやっている人のこのやろうというのは絶対自分自身にも向かっているんですよ。

 

 

浅川マキさんの「ロックグッドバイ」という本もとても面白いんで読んでみてください。
この曲はピアノは今田勝さんのようです。

 

M「世が明けたら」(浅川マキ)*ライブ音源

 

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